商法 条文 商法 解説
第2編 商行為

第7章 運送取扱営業
物品運送機関の発達に伴い、運送人・運送方法・経路などが複雑化し、最も最適な方法を決定することが困難となった。そこで、荷送人のために、最適な運送人を選択して取次をなすとともに、関係書類の作成や通関手続きや品物の保管などをする営業が問屋から分離するにいたった。これを運送取扱営業という。

本章は運送取扱営業についての規定であるが、本章以外にも、実際は通運事業法や道路運送法などの規定があったり、当事者の間では通運約款があったりするため、注意する必要がある。


委託者 運送取次を委託する者
運送取扱人 自分の名前で、物品運送の取次をすることを営業としている者
運送人 荷物を運送する者
荷受人 荷物を受け取る者
※運送人と荷受人の間に、その土地の運送取扱人が介在する場合がある。到達地運送取扱人という。
第559条 【運送取扱人】

 @ 運送取扱人トハ自己ノ名ヲ以テ物品運送ノ取次ヲ為スヲ業トスル者ヲ謂フ

 A 運送取扱人ニハ本章ニ別段ノ定アル場合ヲ除ク外問屋ニ関スル規定ヲ準用ス
「@ 運送取扱人とは、自分の名前で、物品運送の取次をすることを営業としている者のことである。

A 運送取扱人は本章で特別の定めがしてある場合のほかは、第6章の問屋の規定を準用する。」

運送取扱人の仕事は、委託者のために運送人と運送契約をすることである。それに付随して、運送品の包装、受取、引渡し、保管、書類作成なども行う。

また、運送取扱営業は、目的が物品の運送である点を除けば、問屋営業と同質のものである。その為、問屋営業の規定も準用される。
第560条 【運送取扱人の損害賠償責任】

 運送取扱人ハ自己又ハ其使用人カ運送品ノ受取、引渡、保管、運送人又ハ他ノ運送取扱人ノ選択其他運送ニ関スル注意ヲ怠ラサリシコトヲ証明スルニ非サレハ運送品ノ滅失、毀損又ハ延著ニ付キ損害賠償ノ責ヲ免ルルコトヲ得ス
「運送取扱人は、自分または自分の使用人が、運送品の受取、引渡し、保管、運送人または他の運送取扱人の選択、その他運送に関する注意を怠らなかったことを証明しない限り、運送品がなくなったこと、毀損したこと、引き渡しが遅れたことについて生じた損害を償う責任がある。」

本条は一般的に、任意規定であると言われている。
第561条 【報酬請求権】

 @ 運送取扱人カ運送品ヲ運送人ニ引渡シタルトキハ直チニ其報酬ヲ請求スルコトヲ得

 A 運送取扱契約ヲ以テ運送賃ノ額ヲ定メタルトキハ運送取扱人ハ特約アルニ非サレハ別ニ報酬ヲ請求スルコトヲ得ス
「@ 運送取扱人が運送品を運送人に引き渡したときは、すぐに報酬を請求することができる。

A 運送取扱契約で運送賃の額を決めたときは、特別の約束がない限り、運送取扱人は委託者に対して別に報酬を請求することができない。」

本条のAの契約を、確定運賃運送取り扱い契約という。
第562条 【留置権】

 運送取扱人ハ運送品ニ関シ受取ルヘキ報酬、運送賃其他委託者ノ為メニ為シタル立替又ハ前貸ニ付テノミ其運送品ヲ留置スルコトヲ得
「運送取扱人は、運送品に関して受け取るべき報酬、運送賃その他委託者のためにした立替または前貸しについてだけ、それらの支払いがあるまで運送品の引渡しを拒否することができる。」

本条の留置権は、留置の目的物と被担保債権との間に関連性が必要である。その為、一般の商事留置権(第521条)や問屋の留置権(第557条)とは違う。
第563条 【数人の運送取扱人】

 @ 数人相次テ運送ノ取次ヲ為ス場合ニ於テハ後者ハ前者ニ代ハリテ其権利ヲ行使スル義務ヲ負フ

 A 前項ノ場合ニ於テ後者カ前者ニ弁済ヲ為シタルトキハ前者ノ権利ヲ取得ス
「@ ある品物について数人が運送の取次をする場合において、後の運送取扱人は前の運送取扱人に代わってその権利を行使する義務を負う。

A @の場合において、後の運送取扱人が前の運送取扱人に対して、前の運送取扱人が受け取るべき報酬などを支払ったときは、後の運送取扱人が前の運送取扱人の権利を取得する。」

第563条と第564条は、複数の運送取扱人が取次をする場合についての規定である。離れた地域に送る場合、運送人から荷受人に荷物が引き渡される前に、別の運送取扱人に引き渡されることがある。
第564条 【運送取扱人が運送人の権利を取得する場合】

 運送取扱人カ運送人ニ弁済ヲ為シタルトキハ運送人ノ権利ヲ取得ス
「後の運送取扱人が運送人に運送費などの費用を支払ったときは、最初の運送取扱人に対してもっていた運送人の権利を後の運送取扱人が取得する。」

本条は、中間に運送取扱人がいる場合の、その運送取扱人に関する規定である。
第565条 【運送取扱人が自ら運送する場合】

 @ 運送取扱人ハ特約ナキトキハ自ラ運送ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ運送取扱人ハ運送人ト同一ノ権利義務ヲ有ス

 A 運送取扱人カ委託者ノ請求ニ因リテ貨物引換証ヲ作リタルトキハ自ラ運送ヲ為スモノト看做ス
「@ 運送取扱人は特別の約束がないときは、自分で運送をすることができる。この場合、運送取扱人は運送人と同じ権利義務を持つ。

A 運送取扱人が委託者の請求で、貨物引換証を作成したときは、自ら運送することを引き受けたものとみなす。」

@の自分で運送することを介入権という。

実際、運送取扱人が運送業を兼ねている場合は多いため、本条の規定がある。
第566条 【運送取扱人の責任についての時効】

 @ 運送取扱人ノ責任ハ荷受人カ運送品ヲ受取リタル日ヨリ一年ヲ経過シタルトキハ時効ニ因リテ消滅ス

 A 前項ノ期間ハ運送品ノ全部滅失ノ場合ニ於テハ其引渡アルヘカリシ日ヨリ之ヲ起算ス

 B 前二項ノ規定ハ運送取扱人ニ悪意アリタル場合ニハ之ヲ適用セス
「@ 運送取扱人の責任は、荷受人が運送品を受け取ったときから1年間そのままにしておくと時効により消滅する。

A 運送品が全部消滅した場合は、荷受人が運送品を受け取ることができないため、@の1年の期間は、運送品が引き渡されるべき日の翌日から進行することになる。

B 運送取扱人がわざと損害を発生させるようなことをした場合、@とAの規定は適用されない。」

Aの起算日については、民法第140条も参照。

Bの場合、第522条の商行為によって生じた債権の消滅時効の規定により、5年の時効となる。
第567条 【運送取扱人の債権の時効】

 運送取扱人ノ委託者又ハ荷受人ニ対スル債権ハ一年ヲ経過シタルトキハ時効ニ因リテ消滅ス
「運送取扱人が委託者または荷受人に対して持っている債権は、債権を行使できる時から1年間そのままにしておくと時効により消滅する。」

債権とは報酬請求権などのことである。
第568条 【物品運送に関する規定の適用】

 第五百七十八条及ヒ第五百八十三条ノ規定ハ運送取扱営業ニ之ヲ準用ス
「第578条(高価品に関する特則)と第583条(荷受人による荷送人の権利の取得)の規定は、運送取扱営業にも準用する。」

貨幣、有価証券、その他の高価品については、委託者がその種類、価額を明らかに告げなければ、運送取扱人は損害を賠償する責任はない。また、運送品が目的地についた後は、荷受人は運送取扱契約によって生じた委託者の権利を取得する。荷受人が運送品を受け取ったときは、運送取扱人に対し、報酬などを支払う義務がある(第583条)。
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