商法 条文 商法 解説
第2編 商行為

第8章 運送営業

第2節 物品運送
第570条 【運送取扱人】

 @ 荷送人ハ運送人ノ請求ニ因リ運送状ヲ交付スルコトヲ要ス

 A 運送状ニハ左ノ事項ヲ記載シ荷送人之ニ署名スルコトヲ要ス

 1 運送品ノ種類、重量又ハ容積及ヒ其荷造ノ種類、個数並ニ記号

 2 到達地

 3 荷受人ノ氏名又ハ商号

 4 運送状ノ作成地及ヒ其作成ノ年月日
「@ 荷送人は運送人の請求があったときは、運送状を交付しなければならない。

A 運送状には次の1から4を記入し、荷送人は署名しなければならない。

1 運送品の種類、重量または容積、荷造りの種類、個数、記号
2 到達地
3 荷受人の氏名または商号
4 運送状の作成地と作成年月日」

通俗的に送り状と言われているものには、本条の運送状と出荷案内書がある。
第571条 【貨物引換証の記載事項】

 @ 運送人ハ荷送人ノ請求ニ因リ貨物引換証ヲ交付スルコトヲ要ス

 A 貨物引換証ニハ左ノ事項ヲ記載シ運送人之ニ署名スルコトヲ要ス

 1 前条第二項第一号乃至第三号ニ掲ケタル事項
 
 2 荷送人ノ氏名又ハ商号

 3 運送賃

 4 貨物引換証ノ作成地及ヒ其作成ノ年月日
「@ 運送人は、荷送人の請求があったときは、貨物引換証を交付しなければならない。

A 貨物引換証には、次の1から4を記入し、運送人は署名しなければならない。

1 運送品の種類、重量または容積、荷造りの種類、個数、記号、到達地、荷受人の氏名または商号
2 荷送人の名前または商号
3 運送賃
4 貨物引換証の作成地と作成年月日」

本条から第575条までは貨物引換証についての規定である。貨物引換証とは、運送人が運送品の受け取りを承認し目的地において証券所持人に引き渡すことを約束する有価証券である。

運送途中の品物の所有者が貨物引換証を譲渡または質入れするために利用するものであるが、実際的には、代金取立てのための為替手形と結合して荷為替の形式で利用されることが多い。

本条第2項の記載がなかった場合でも、証券の本質を害さない限りは、貨物引換証としての効力が失われないとするのが、最近の判例である。
第572条 【貨物引換証を作成したときの運送人と所持人の関係】

 貨物引換証ヲ作リタルトキハ運送ニ関スル事項ハ運送人ト所持人トノ間ニ於テハ貨物引換証ノ定ムル所ニ依ル
「貨物引換証が作成されたとき、運送人と所持人の間で運送に関する事項は、貨物引換証に書かれている文章によって決められる。」

関係 説明
運送人と荷送人 運送契約などによって定まる
運送人と貨物引換証の所持人 貨物引換証によって定まる

証券の文言によって権利内容が定まる証券を文言証券といい、貨物引換証がこれにあたる。
第573条 【運送品の処分】

 貨物引換証ヲ作リタルトキハ運送品ニ関スル処分ハ貨物引換証ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
「貨物引換証が作成されたとき、運送品の処分は、貨物引換証でしなければならない。」

運送品の処分とは、売却や質入などである。貨物引換証でしなければならないとは、貨物引換証の裏書や交付などである。
第574条 【貨物引換証の裏書】

 貨物引換証ハ其記名式ナルトキト雖モ裏書ニ依リテ之ヲ譲渡スコトヲ得但貨物引換証ニ裏書ヲ禁スル旨ヲ記載シタルトキハ此限ニ在ラス
「貨物引換証は、裏書によって他人に譲渡することができる。ただし、貨物引換証に裏書を禁じると書かれている場合は、譲渡できない。」

貨物引換証には、第571条が規定するように、荷受人の名前を書かなければならない。そのため、記名式のものだけが発行を許され、無記名式のものは許されていない。しかし、第519条により、「荷受人または本証所持人に渡す」という方式の証券も有効に発行できるため、その場合の譲渡方法は証券の交付だけでよい。
第575条 【貨物引換証の引渡し】

 貨物引換証ニ依リ運送品ヲ受取ルコトヲ得ヘキ者ニ貨物引換証ヲ引渡シタルトキハ其引渡ハ運送品ノ上ニ行使スル権利ノ取得ニ付キ運送品ノ引渡ト同一ノ効力ヲ有ス
「貨物引換証によって運送品を受け取ることができる者に、貨物引換証を引き渡したとき、その引渡しは、所有権の移転などに関しては、運送品の引渡しと同一の効力をもつ。」

本条は、運送中の運送品についての取引(売買など)を簡単にするための規定である。
第576条 【運送品が滅失した場合】

 @ 運送品ノ全部又ハ一部カ不可抗力ニ因リテ滅失シタルトキハ運送人ハ其運送賃ヲ請求スルコトヲ得ス若シ運送人カ既ニ其運送賃ノ全部又ハ一部ヲ受取リタルトキハ之ヲ返還スルコトヲ要ス

 A 運送品ノ全部又ハ一部カ其性質若クハ瑕疵又ハ荷送人ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ運送人ハ運送賃ノ全額ヲ請求スルコトヲ得
「@ 運送品の全部または一部が不可抗力で滅失したときは、運送人は運送賃を請求することができない。もし、運送人が運送賃の全部または一部を受け取っていたときは、返還しなければならない。

A 運送品の全部または一部が、その性質もしくは欠陥によって、または、荷送人の過失によって滅失したときは、運送人は運送賃の全額を請求することができる。

本条は民法第536条の規定と同主旨である。
第577条 【運送人が損賠賠償責任を負う場合】

 運送人ハ自己若クハ運送取扱人又ハ其使用人其他運送ノ為メ使用シタル者カ運送品ノ受取、引渡、保管及ヒ運送ニ関シ注意ヲ怠ラサリシコトヲ証明スルニ非サレハ運送品ノ滅失、毀損又ハ延著ニ付キ損害賠償ノ責ヲ免ルルコトヲ得ス
「運送人は、自分・運送取扱人・運送取扱人の使用人・その他運送に関係した者が、運送品の受け取り・引渡し・保管・運送について注意を怠らなかったことを証明しない限り、運送品を滅失したり、毀損したり、到着を遅らせたりしたことについての損害賠償の責任を負う。」

本条は強行規定ではないというのが一般的である。そのため、約款などで、運送人の責任を軽減したり、免除したとしても、それが極端に一方的なものでない限り、有効となる。
第578条 【高価品について】

 貨幣、有価証券其他ノ高価品ニ付テハ荷送人カ運送ヲ委託スルニ当タリ其種類及ヒ価額ヲ明告シタルニ非サレハ運送人ハ損害賠償ノ責ニ任セス
「貨幣、有価証券、その他の高価品について、荷送人が運送を委託するにあたり、その種類と価額を明らかにしなかったときは、運送人は損害賠償の責任を負わない。」

その他の高価品とは、宝石や美術品などのことである。つまり、容積や重量がたいしたことのない割りに、値のはる物の事である。これらについて運送を委託するときに種類や価額をつげなければ、滅失や毀損した場合、損害賠償を請求することができなくなる。
第579条 【相次運送】

 数人相次テ運送ヲ為ス場合ニ於テハ各運送人ハ運送品ノ滅失、毀損又ハ延著ニ付キ連帯シテ損害賠償ノ責ニ任ス
「一つの運送品を数人の運送人が相次いで運送した場合、各運送人は運送品が滅失・毀損・到着が遅れたときは、連帯して損害賠償の責任を負う。」

本条は、運送中の相次運送(そうじうんそう)についての規定である。運送品が滅失していた場合などは、荷受人はどの運送人に対しても損害賠償の請求ができる。
第580条 【損額賠償額の決定】

 @ 運送品ノ全部滅失ノ場合ニ於ケル損害賠償ノ額ハ其引渡アルヘカリシ日ニ於ケル到達地ノ価格ニ依リテ之ヲ定ム

 A 運送品ノ一部滅失又ハ毀損ノ場合ニ於ケル損害賠償ノ額ハ其引渡アリタル日ニ於ケル到達地ノ価格ニ依リテ之ヲ定ム但延著ノ場合ニ於テハ前項ノ規定ヲ準用ス

 B 運送品ノ滅失又ハ毀損ノ為メ支払フコトヲ要セサル運送賃其他ノ費用ハ前二項ノ賠償額ヨリ之ヲ控除ス
「@ 運送品の全部が滅失した場合の損害賠償の額は、運送品が引き渡されていたであろう日における、到達地の価格によって決まる。

A 運送品の一部滅失または毀損の場合の損害賠償の額は、運送品が引き渡されていたであろう日における、到達地の価格によって決まる。ただし、引渡しが遅れた場合には、@の規定を準用する。

B 運送品の滅失または毀損のため支払う必要がなくなった運送賃その他の費用は、@とAの損害額から差し引く。」

本条は、賠償額を定型化することによって、運送業者の保護をはかったものである。
第581条 【運送人が運送品を滅失などした場合】

 運送品カ運送人ノ悪意又ハ重大ナル過失ニ因リテ滅失、毀損又ハ延著シタルトキハ運送人ハ一切ノ損害ヲ賠償スル責ニ任ス
「運送人がわざとまたは重大な過失で、運送品を滅失したり、毀損したり、到着を遅らせたりしたときは、発生した一切の損害を賠償する責任を負う。」
第582条 【運送品を処分する権利】

 @ 荷送人又ハ貨物引換証ノ所持人ハ運送人ニ対シ運送ノ中止、運送品ノ返還其他ノ処分ヲ請求スルコトヲ得此場合ニ於テハ運送人ハ既ニ為シタル運送ノ割合ニ応スル運送賃、立替金及ヒ其処分ニ因リテ生シタル費用ノ弁済ヲ請求スルコトヲ得

 A 前項ニ定メタル荷送人ノ権利ハ運送品カ到達地ニ達シタル後荷受人カ其引渡ヲ請求シタルトキハ消滅ス
「@ 荷送人または貨物引換証の所持人は、運送人に対して、運送の中止、運送品の返還、その他の処分を請求することができる。この場合、運送人は、すでにした運送の割合に応じた運送賃、立替金、処分によって生じた費用の支払いを求めることができる。

A @の荷送人の権利は、運送品が到達地について、荷受人がその引渡しを請求したときは消滅する。」

本条は荷送人の指図権についての規定である。運送品を発送後に、買主の信用悪化などがあった場合に、使われる。
第583条 【荷受人が荷送人の権利を得る場合】

 @ 運送品カ到達地ニ達シタル後ハ荷受人ハ運送契約ニ因リテ生シタル荷送人ノ権利ヲ取得ス

 A 荷受人カ運送品ヲ受取リタルトキハ運送人ニ対シ運送賃其他ノ費用ヲ支払フ義務ヲ負フ
「@ 運送品が到達地に着いた後は、荷受人は運送契約によって生じた荷送人の権利を取得する。

A 荷受人が運送品を受け取ったときは、運送人に対して運送賃やその他の費用を支払う義務を負う。」

荷受人は運送契約の当事者ではないが、本条の規定により権利を得、義務を負う。ただし、荷送人の権利も消滅していない場合には、荷送人の権利のほうが優先すると一般的に言われている。
第584条 【貨物引換証との引換】

 貨物引換証ヲ作リタル場合ニ於テハ之ト引換ニ非サレハ運送品ノ引渡ヲ請求スルコトヲ得ス
「貨物引換証を作成した場合、運送品の引渡し請求は貨物引換証と引き換えでなければできない。」

本条は、貨物引換証の引換証券聖または受け戻し証券性についての規定である。
第585条 【荷受人がわからない場合】

 @ 荷受人ヲ確知スルコト能ハサルトキハ運送人ハ運送品ヲ供託スルコトヲ得

 A 前項ノ場合ニ於テ運送人カ荷送人ニ対シ相当ノ期間ヲ定メ運送品ノ処分ニ付キ指図ヲ為スヘキ旨ヲ催告スルモ荷送人カ其指図ヲ為ササルトキハ運送品ヲ競売スルコトヲ得

 B 運送人カ前二項ノ規定ニ従ヒテ運送品ノ供託又ハ競売ヲ為シタルトキハ遅滞ナク荷送人ニ対シテ其通知ヲ発スルコトヲ要ス
「@ 荷受人の所在地や、荷受人が誰であるかなどがわからない場合、運送人は運送品を供託することができる。

A @の場合において、運送人が荷送人に対して、相当の期間を定めて運送品の処分について指図するよう催告したが、荷送人からの指図がなかった場合、運送品を競売することができる。

B 運送人が@とAの規定に従って運送品を供託または競売したときは、すぐに荷送人に対してその通知をしなければならない。」
第586条 【運送品の引渡しに関して争いがある場合】

 @ 前条ノ規定ハ運送品ノ引渡ニ関シテ争アル場合ニ之ヲ準用ス

 A 運送人カ競売ヲ為スニハ予メ荷受人ニ対シ相当ノ期間ヲ定メテ運送品ノ受取ヲ催告シ其期間経過ノ後更ニ荷送人ニ対スル催告ヲ為スコトヲ要ス

 B 運送人ハ遅滞ナク荷受人ニ対シテモ運送品ノ供託又ハ競売ノ通知ヲ発スルコトヲ要ス
「@ 運送品の引渡しに関して争いがある場合は、第585条の規定を準用する。

A 運送人が競売するときは、あらかじめ荷受人に対して相当の期間を定めて運送品の受け取りを催告し、その相当の期間が経過した後に、荷送人に対して運送品の処分について指図するよう催告しなければならない。

B 運送人はすぐに、荷送人と荷受人に対して運送品の供託または競売の通知をしなければならない。」

第587条 【壊れやすいものなどの競売と供託】

 第五百二十四条第二項及ヒ第三項ノ規定ハ前二条ノ場合ニ之ヲ準用ス
「第586条の規定について、第524条第2項と第3項の規定を準用する。」

それぞれの条文については以下を参照。
第524条 説明
第2項 腐りやすかったり、値段の下落が激しい物については、催促なしで競売にかけることができる
第3項 競売により品物を売却したときは、その代金を供託しなければならない。ただし、代金の全てまたは一部を品物代に当てることができる。
第588条 【運送人の責任が消滅する場合】

 @ 運送人ノ責任ハ荷受人カ留保ヲ為サスシテ運送品ヲ受取リ且運送賃其他ノ費用ヲ支払ヒタルトキハ消滅ス但運送品ニ直チニ発見スルコト能ハサル毀損又ハ一部滅失アリタル場合ニ於テ荷受人カ引渡ノ日ヨリ二週間内ニ運送人ニ対シテ其通知ヲ発シタルトキハ此限ニ在ラス

 A 前項ノ規定ハ運送人ニ悪意アリタル場合ニハ之ヲ適用セス
「@ 運送人の責任は、荷受人が特に何も言わずに荷物を受け取り、運送賃を支払ったときに消滅する。ただし、運送品にすぐに発見できないような傷や一部分の滅失があった場合においては、荷受人が引渡しの日から2週間以内に運送人に対してそのことを通知したときは、運送人の責任は消滅しない。

A @の規定は、運送人がわざと傷をつけたり、一部分を滅失したりしたような場合は適用されない。」

Aはつまり、運送人は責任を免れることはできないということである。
第589条 【運送取扱人の規定の準用】

 第五百六十二条、第五百六十三条、第五百六十六条及ヒ第五百六十七条ノ規定ハ運送人ニ之ヲ準用ス
「第562条、第563条、第566条、第567条の規定は、運送人についても準用する。」

それぞれの条文の運送取扱人の部分を運送人に読み替えるとよい。
各条文については以下の表を参照。
条文 簡単な説明
第562条 留置権
第563条 数人の運送取扱人
第566条 責任の時効
第567条 債権の時効
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