商法 条文 商法 解説
第2編 商行為

第9章 寄託

第1節 総則
本章は、民法第657条以下の寄託の特別法である。実際的には、本章以外の約款や特別法令が適用されることも多い。

民法の以下のページも参照。
第11節 寄託 第657条〜第666条
第593条 【商人の注意義務】

 商人カ其営業ノ範囲内ニ於テ寄託ヲ受ケタルトキハ報酬ヲ受ケサルトキト雖モ善良ナル管理者ノ注意ヲ為スコトヲ要ス
「商人がその営業の範囲内で物を預かったときは、報酬をもらっていないときでも、一般に払わなければならない注意をもってその物を保管しなければならない。」

本条は民法第659条の特則である。善良なる管理者の注意は、善管注意義務のことで、商人が一般に払わなければならない程度の注意のことである。民法では、「自己の財産に対するのと同一の注意」とされているが、商人の場合はそれよりも責任が加重されている。

商法(第593条) 民法(第659条)
注意義務 善良なる管理者の注意 自己の財産に対するのと同一の注意


また、本条は任意規定であるため、商法第594条第3項の場合を除いて、特約などによって責任を軽減することができる。
第594条 【旅館、浴場などの営業主の責任】

 @ 旅店、飲食店、浴場其他客ノ来集ヲ目的トスル場屋ノ主人ハ客ヨリ寄託ヲ受ケタル物品ノ滅失又ハ毀損ニ付キ其不可抗力ニ因リタルコトヲ証明スルニ非サレハ損害賠償ノ責ヲ免ルルコトヲ得ス

 A 客カ特ニ寄託セサル物品ト雖モ場屋中ニ携帯シタル物品カ場屋ノ主人又ハ其使用人ノ不注意ニ因リテ滅失又ハ毀損シタルトキハ場屋ノ主人ハ損害賠償ノ責ニ任ス

 B 客ノ携帯品ニ付キ責任ヲ負ハサル旨ヲ告示シタルトキト雖モ場屋ノ主人ハ前二項ノ責任ヲ免ルルコトヲ得ス
「@ 旅館、飲食店、浴場など客を集めて営業している店の主人は、客から預かった物を滅失または毀損したとき、不可抗力によって生じたことを証明しない限り、損害賠償の責任を免れない。

A 客が特に預けなかった物でも、店で携帯していた物が、その営業主または使用人の不注意によって滅失または毀損したときは、営業主はその損害を賠償しなければならない。

B 客の携帯品については責任を負わないということを告示しても、場屋の主人は、@とAの責任を免れることはできない。」

場屋とはあまり聞かない言葉だが、@にあるように、旅館や飲食店や浴場などお客を集めて営業している店のことである。不可抗力とは、通常必要とされる注意を払っていても、防ぎようのない外部からの事故などのことである。
第595条 【高価品について】

 貨幣、有価証券其他ノ高価品ニ付テハ客カ其種類及ヒ価額ヲ明告シテ之ヲ前条ノ場屋ノ主人ニ寄託シタルニ非サレハ其場屋ノ主人ハ其物品ノ滅失又ハ毀損ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任セス
「貨幣、有価証券、その他の高価品については、客がその種類と価額を明確に告げた上で、第594条の店の営業主に預けた場合でなければ、営業主はその物が滅失または毀損したことによって生じた損害を賠償する責任を負わない。」

本条は、第578条などと同じような趣旨である。その他の高価品とは、宝石などのことである。
第596条 【前2条の責任の時効】

 @ 前二条ノ責任ハ場屋ノ主人カ寄託物ヲ返還シ又ハ客カ携帯品ヲ持去リタル後一年ヲ経過シタルトキハ時効ニ因リテ消滅ス

 A 前項ノ期間ハ物品ノ全部滅失ノ場合ニ於テハ客カ場屋ヲ去リタル時ヨリ之ヲ起算ス

 B 前二項ノ規定ハ場屋ノ主人ニ悪意アリタル場合ニハ之ヲ適用セス
「@ 第594条と第595条の営業主の責任は、営業主が預かった物を返還した後、または、客が携帯品(店にもってきたが預けなかった物)を持ち去った後、1年たてば時効により消滅する。

A 物が全て滅失した場合には、@の1年という期間は、客が店を去ったときから起算する。

B @とAの規定は、店の営業主がわざと発生させたような場合には、適用しない。」

Aの起算日については、民法第140条を参照。
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