商法 条文 商法 解説
第2編 商行為

第9章 寄託

第2節 倉庫営業
本節では倉庫営業について規定されている。
第597条 【倉庫営業者】

 倉庫営業者トハ他人ノ為メニ物品ヲ倉庫ニ保管スルヲ業トスル者ヲ謂フ
「倉庫営業者とは、他人のために物を倉庫に保管することを商売にしている者のことである。」

本章以外にも、倉庫業法などの特別法がある。
第598条 【預かり証券、質入証券の交付】

 倉庫営業者ハ寄託者ノ請求ニ因リ寄託物ノ預証券及ヒ質入証券ヲ交付スルコトヲ要ス
「倉庫営業者は、物を預けた者からの請求があったとき、その者の預かり証券および質入証券を預けた物に交付しなければならない。」

倉庫営業者は、寄託者から請求があったときは、本条の証券または倉荷証券(第627条)を発行しなければならない(これらの証券を倉庫証券という)。

本条が規定する制度を複権主義といい、預かり証券によって所有権の移転ができ、質入証券によって質入を行うことができる。ただし、この制度はほとんどりようされておらず、単権主義である倉荷証券が利用されている。

主義 内容
複権主義 ・預かり証券(売却)
・質入証券(質入)
単権主義 ・倉荷証券(売却、質入)
※現在の商法では、複権主義と単権主義の両者を併用する併用主義を採用している。しかし、実際的には、倉荷証券が利用されている。
※これらの倉庫証券は、倉庫業法で、倉庫業者しか発行できないことになっている。
第599条 【証券の記載事項】

 預証券及ヒ質入証券ニハ左ノ事項及ヒ番号ヲ記載シ倉庫営業者之ニ署名スルコトヲ要ス

 1 受寄物ノ種類、品質、数量及ヒ其荷造ノ種類、個数並ニ記号

 2 寄託者ノ氏名又ハ商号

 3 保管ノ場所

 4 保管料

 5 保管ノ期間ヲ定メタルトキハ其期間

 6 受寄物ヲ保険ニ付シタルトキハ保険金額、保険期間及ヒ保険者ノ氏名又ハ商号

 7 証券ノ作成地及ヒ其作成ノ年月日
「預かり証券および質入証券に次の1から7と番号を記載し、倉庫営業者これに署名をしなければならない。

1 預かった物の種類、品質、数量、荷造りの種類、個数、記号
2 預けた者の名前または商号
3 保管場所
4 保管料
5 保管期間を定めたときは期間
6 預かった物に保険をかけた場合は、保険金額、保険期間および保険者の名前または商号
7 証券作成地および作成年月日」


記載事項は、預かり証券、質入証券、倉荷証券のいずれについても同じである。
第600条 【証券の帳簿】

 倉庫営業者カ預証券及ヒ質入証券ヲ寄託者ニ交付シタルトキハ其帳簿ニ左ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス

 1 前条第一号、第二号及ヒ第四号乃至第六号ニ掲ケタル事項

 2 証券ノ番号及ヒ其作成ノ年月日
「倉庫営業者が預かり証券および質入証券を寄託者に交付したときは、その帳簿に次のことを記載しなければならない。

1 第599条第1号、第2号、第4号、第5号、第6号
2 証券番号および作成年月日」

証券について、帳簿を備え付けることを商法では直接命じていないが、本条により、備え付けておくべきだと解釈されている。
第601条 【寄託物を分割したとき】

 @ 預証券及ヒ質入証券ノ所持人ハ倉庫営業者ニ対シ寄託物ヲ分割シ且其各部分ニ対スル預証券及ヒ質入証券ノ交付ヲ請求スルコトヲ得此場合ニ於テハ所持人ハ前ノ預証券及ヒ質入証券ヲ倉庫営業者ニ返還スルコトヲ要ス

 A 前項ニ定メタル寄託物ノ分割及ヒ証券ノ交付ニ関スル費用ハ所持人之ヲ負担ス
「@ 預かり証券および質入証券の所持人は、倉庫営業者に対して、寄託物を分割し、分割した各部分に対して預かり証券および質入証券の交付を請求することができる。この場合、所持人は分割する前の預かり証券および質入証券を倉庫営業者に返還しなければならない。

A @によって寄託物を分割したり、証券を交付した場合においての費用は、証券の所持人が負担する。」

寄託物の全てが一度に譲渡されたり質入されたりするとは限らないため、本条が規定されている。
第602条 【所持人と倉庫営業者の関係は証券が定める】

 預証券及ヒ質入証券ヲ作リタルトキハ寄託ニ関スル事項ハ倉庫営業者ト所持人トノ間ニ於テハ其証券ノ定ムル所ニ依ル
「預かり証券および質入証券が作成されたときは、倉庫営業者と証券の所持人との間の、寄託に関する事項は、その証券に記載された文章によって決まる。」

第572条と同じである。
第603条 【証券の裏書譲渡】

 @ 預証券及ヒ質入証券ハ其記名式ナルトキト雖モ裏書ニ依リテ之ヲ譲渡シ又ハ之ヲ質入スルコトヲ得但証券ニ裏書ヲ禁スル旨ヲ記載シタルトキハ此限ニ在ラス

 A 預証券ノ所持人カ未タ質入ヲ為ササル間ハ預証券及ヒ質入証券ハ各別ニ之ヲ譲渡スコトヲ得ス
「@ 預かり証券および質入証券は、裏書によって他人に譲渡したりまたは質入することができる。ただし、裏書を禁じると書かれている場合は、譲渡できない。

A 預かり証券の所持人がまだ質入をしない間は、預かり証券、質入証券を別々に譲渡することはできない。」

質入証券は、寄託物の質入についてだけ用いられるものであり、質入がない間は、証券自体無価値であり、独立して譲渡することはできない。預かり証券の裏書譲渡があれば、質入証券についても別に裏書を要せず、預かり証券とともに譲渡される。
第604条 【証券の効力】

 第五百七十三条及ヒ第五百七十五条ノ規定ハ預証券及ヒ質入証券ニ之ヲ準用ス
「第573条と第575条の規定は、預かり証券と質入証券に準用する。」

それぞれの条文を準用したものは以下である。
条文 説明
第573条 預かり証券、質入証券を作成したとき、寄託物の処分(売却や質入)は、その証券でしなければならない(裏書など)。
第575条 預かり証券によって寄託物を受け取ることができる者に、その証券を引き渡したとき、その引渡しは、所有権の移転などのために寄託物を引渡したのと同一の効力をもつ。質入証券により質権を行使できる者に、その証券を引き渡したとき、その引渡しは、質入れのために寄託物を引き渡したのと同一の効力を持つ。
第605条 【証券の再発行】

 預証券又ハ質入証券カ滅失シタルトキハ其所持人ハ相当ノ担保ヲ供シテ更ニ其証券ノ交付ヲ請求スルコトヲ得此場合ニ於テハ倉庫営業者ハ其旨ヲ帳簿ニ記載スルコトヲ要ス
「預かり証券または質入証券が滅失したとき、その所持人は相当の担保を提供して、再交付を請求することができる。この場合、倉庫営業者は、そのことを帳簿に記載しておかなければならない。」
第606条 【質入証券の第一質入裏書】

 @ 質入証券ニ第一ノ質入裏書ヲ為スニハ債権額、其利息及ヒ弁済期ヲ記載スルコトヲ要ス

 A 第一ノ質権者カ前項ニ掲ケタル事項ヲ預証券ニ記載シテ之ニ署名スルニ非サレハ質権ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
「@ 質入証券に第一の質入裏書をするには、裏書の記載のほかに、債権額、利息、弁済期を記載しなければならない。

A 第一番目の質権者が@の事項を預かり証券に記載して署名しなければ、自分の質権を第三者に主張することはできない。」

第一の質入裏書を受けた質権者は、さらに質入証券の裏書をすることによって、その債権と質権とをあわせて他人に譲渡することができる。
第607条 【預かり証券の所持人の義務】

 預証券ノ所持人ハ寄託物ヲ以テ預証券ニ記載シタル債権額及ヒ利息ヲ弁済スル義務ヲ負フ
「預かり証券の所持人は、寄託物で、預かり証券に記載された債権額および利息を弁済する義務を負う。」

寄託物の価格が債務と利息の額より高いときは、弁済をして寄託物を引き取ることができる。逆に、低いときは、寄託物を債権者に渡して、返済を免れることができる。有利な方を選択することができるということである。
第608条 【弁済場所】

 質入証券所持人ノ債権ノ弁済ハ倉庫営業者ノ営業所ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス
「質入証券の所持人に対する預かり証券の所持人の債務の弁済は、倉庫営業者の営業所でしなければならない。」

預かり証券の所持人が債務を弁済したくても、質入証券の現在の所持人がわからないことがある。そこで、本条の規定により、倉庫営業者の営業所で、両証券の所持人が弁済をすることとされている。
第609条 【拒絶証書】

 質入証券ノ所持人カ弁済期ニ至リ支払ヲ受ケサルトキハ手形ニ関スル規定ニ従ヒテ拒絶証書ヲ作ラシムルコトヲ要ス
「質入証券の所持人が弁済期に支払いをえられなかったときは、手形に関する規定(手形法第84条、第44条)に従って、拒絶証書を作らなければならない。」

拒絶証書は、公証人などに作成してもらう。
第610条 【質入証券所持人の競売請求権】

 質入証券ノ所持人ハ拒絶証書作成ノ日ヨリ一週間ヲ経過シタル後ニ非サレハ寄託物ノ競売ヲ請求スルコトヲ得ス
「質入証券の所持人は、拒絶証書が作成された日から1週間後でなければ、寄託物の競売を倉庫営業者に対して請求することができない。」
第611条 【競売代金について】

 @ 倉庫営業者ハ競売代金ノ中ヨリ競売ニ関スル費用、受寄物ニ課スヘキ租税、保管料其他保管ニ関スル費用及ヒ立替金ヲ控除シタル後其残額ヲ質入証券ト引換ニ其所持人ニ支払フコトヲ要ス

 A 競売代金ノ中ヨリ前項ニ掲ケタル費用、租税、保管料、立替金及ヒ質入証券所持人ノ債権額、利息、拒絶証書作成ノ費用ヲ控除シタル後余剰アルトキハ倉庫営業者ハ之ヲ預証券ト引換ニ其所持人ニ支払フコトヲ要ス
「@ 倉庫営業者は競売代金から、競売費用、預かった物に課される税金、保管料、その他保管に関する費用、立替金を差し引き、残額があれば、質入証券と引換に、その所持人に支払わなければならない。

A 競売代金から、競売費用、租税、保管料、立替金、質入証券所持人の債権額、利息、拒絶証書作成費用を差し引き、残額があれば、倉庫営業者はこれを預かり証券と引換に、その所持人に支払わなければならない。」
第612条 【競売代金が債権額に足りないとき】

 競売代金ヲ以テ質入証券ニ記載シタル債権ノ全部ヲ弁済スルコト能ハサリシトキハ倉庫営業者ハ其支払ヒタル金額ヲ質入証券ニ記載シテ其証券ヲ返還シ且其旨ヲ帳簿ニ記載スルコトヲ要ス
「競売代金では、質入証券に記載してある債権額の全部を弁済することができないときは、倉庫営業者は、支払った金額を質入証券に記載して、その証券を所持人に返還したうえで、そのことを帳簿に記載しなければならない。」

第613条 【質入証券所持人は不足額を請求できる】

 @ 質入証券ノ所持人ハ先ツ寄託物ニ付キ弁済ヲ受ケ尚ホ不足アルトキハ其裏書人ニ対シテ不足額ヲ請求スルコトヲ得

 A 手形法第四十五条第一項第三項第五項第六項 、第四十八条第一項、第四十九条及ヒ第五十条第一項ノ規定ハ前項ニ定メタル不足額ノ請求ニ之ヲ準用ス

 B 手形法第五十二条第三項 ノ規定ハ不足額ノ請求ヲ受クル者ノ営業所又ハ住所ノ所在地カ其請求ヲ為ス者ノ営業所又ハ住所ノ所在地ト異ナル場合ニ於ケル償還額ノ算定ニ付キ之ヲ準用ス
「@ 質入証券の所持人はまず寄託物から弁済を受け、なお不足するときは証券の裏書人に対して不足額を請求することができる。

A @の規定にある不足額の請求については、手形法第45条第1項、第3項、第5項、第6項、第48条第1項、第49条、第50条第1項の規定を準用する。

B 手形法第52条第3項の規定は、不足額の請求を受ける者の営業所または住所が請求をする者の営業所または住所と異なる場合において、償還額の算定について準用する。」

手形法の条文については、以下を参照。Bは住所が違うほかに、貨幣単位なども違うことを想定している。
手形法 条文
第45条第1項 所持人ハ拒絶証書作成ノ日ニ次グ又ハ無費用償還文句アル場合ニ於テハ呈示ノ日ニ次グ4取引日内ニ自己ノ裏書人及振出人ニ対シ引受拒絶又ハ支払拒絶アリタルコトヲ通知スルコトヲ要ス 各裏書人ハ通知ヲ受ケタル日ニ次グ2取引日内ニ前ノ通知者全員ノ名称及宛所ヲ示シテ自己ノ受ケタル通知ヲ自己ノ裏書人ニ通知シ順次振出人ニ及ブモノトス 此ノ期間ハ各其ノ通知ヲ受ケタル時ヨリ進行ス
第45条第3項 裏書人ガ其ノ宛所ヲ記載セズ又ハ其ノ記載ガ読ミ難キ場合ニ於テハ其ノ裏書人ノ直接ノ前者ニ通知スルヲ以テ足ル
第45条第5項 通知ヲ為スベキ者ハ適法ノ期間内ニ通知ヲ為シタルコトヲ証明スルコトヲ要ス 此ノ期間内ニ通知ヲ為ス書面ヲ郵便ニ付シ又ハ民間事業者による信書の送達に関する法律(平成14年法律第99号)第2条第6項ニ規定スル一般信書便事業者若ハ同条第9項ニ規定スル特定信書便事業者ノ提供スル同条第2項ニ規定スル信書便ノ役務ヲ利用シテ発送シタル場合ニ於テハ其ノ期間ヲ遵守シタルモノト看做ス
第45条第6項 前項ノ期間内ニ通知ヲ為サザル者ハ其ノ権利ヲ失フコトナシ 但シ過失ニ因リテ生ジタル損害アルトキハ為替手形ノ金額ヲ超エサル範囲内ニ於テ其ノ賠償ノ責ニ任ズ
第48条第1項 所持人ハ遡求ヲ受クル者ニ対シ左ノ金額ヲ請求スルコトヲ得
1 引受又ハ支払アラザリシ為替手形ノ金額及利息ノ記載アルトキハ其ノ利息
2 年6分ノ率ニ依ル満期以後ノ利息
3 拒絶証書ノ費用、通知ノ費用及其ノ他ノ費用
第49条 為替手形ヲ受戻シタル者ハ其ノ前者ニ対シ左ノ金額ヲ請求スルコトヲ得
1 其ノ支払ヒタル総金額
2 前号ノ金額ニ対シ年6分ノ率ニ依リ計算シタル支払ノ日以後ノ利息
3 其ノ支出シタル費用
第50条第1項 遡求ヲ受ケタル又ハ受クベキ債務者ハ支払ト引換ニ拒絶証書、受取ヲ証スル記載ヲ為シタル計算書及為替手形ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
手形法第52条第3項 所持人ガ戻手形ヲ振出ス場合ニ於テハ其ノ金額ハ本手形ノ支払地ヨリ前者ノ住所地ニ宛テ振出ス一覧払ノ為替手形ノ相場ニ依リ之ヲ定ム 裏書人ガ戻手形ヲ振出ス場合ニ於テハ其ノ金額ハ戻手形ノ振出人ガ其ノ住所地ヨリ前者ノ住所地ニ宛テ振出ス一覧払手形ノ相場ニ依リ之ヲ定ム
第614条 【裏書人に請求できなくなる場合】

 質入証券ノ所持人カ弁済期ニ至リ支払ヲ受ケサリシ場合ニ於テ拒絶証書ヲ作ラシメサリシトキ又ハ拒絶証書作成ノ日ヨリ二週間内ニ寄託物ノ競売ヲ請求セサリシトキハ裏書人ニ対スル請求権ヲ失フ
「質入証券の所持人が弁済期に支払いをされなかった場合において、拒絶証書を作らなかったとき、または、拒絶証書作成の日から2週間以内に寄託物の競売請求をしなかったときは、裏書人に対する請求権を失う。」

第615条 【質入証券所持人の権利の時効】

 質入証券所持人ノ預証券所持人ニ対スル請求権ハ弁済期ヨリ一年質入証券裏書人ニ対スル請求権ハ寄託物ニ付キ弁済ヲ受ケタル日ヨリ六个月質入証券裏書人ノ其前者ニ対スル請求権ハ償還ヲ為シタル日ヨリ六个月ヲ経過シタルトキハ時効ニ因リテ消滅ス
「質入証券所持人の預かり証券所持人に対する請求権は、債権の弁済期から1年、質入証券裏書人に対する請求権は寄託物について弁済を受けた日より6ヶ月、質入証券裏書人が不足額を支払った場合にその前の裏書人に対する請求権は、その支払いをした日から6ヶ月を経たときは、それぞれ時効によって消滅する。」
第616条 【証券所持人の寄託物の点検】

 @ 寄託者又ハ預証券ノ所持人ハ営業時間内何時ニテモ倉庫営業者ニ対シテ寄託物ノ点検若クハ其見本ノ摘出ヲ求メ又ハ其保存ニ必要ナル処分ヲ為スコトヲ得

 A 質入証券ノ所持人ハ営業時間内何時ニテモ倉庫営業者ニ対シテ寄託物ノ点検ヲ求ムルコトヲ得
「@ 寄託者または預かり証券の所持人は、倉庫営業者に対して、その営業時間内はいつでも、寄託物の検査とかその見本の取り出しを求めることができる。また、寄託物の保存に必要な処置をすることもできる。

A 質入証券の所持人は、倉庫営業者に対して、その営業時間内はいつでも、寄託物の検査を求めることができる。」
第617条 【倉庫営業者の責任】

 倉庫営業者ハ自己又ハ其使用人カ受寄物ノ保管ニ関シ注意ヲ怠ラサリシコトヲ証明スルニ非サレハ其滅失又ハ毀損ニ付キ損害賠償ノ責ヲ免ルルコトヲ得ス
「倉庫営業者は自分または使用人が、預かった物の保管に関して注意を怠らなかったことを証明しない限り、滅失または毀損について損害賠償責任を免れることはできない。」

第577条と同様である。
第618条 【保管料などの請求】

 倉庫営業者ハ受寄物出庫ノ時ニ非サレハ保管料及ヒ立替金其他受寄物ニ関スル費用ノ支払ヲ請求スルコトヲ得ス但受寄物ノ一部出庫ノ場合ニ於テハ割合ニ応シテ其支払ヲ請求スルコトヲ得
「倉庫営業者は、預かった物を倉庫から出して引き渡すときでなければ、保管料、立替金、その他預かった物に関する費用の支払いを請求することができない。ただし、預かった物の一部を倉庫から出して引き渡すときは、その割合に応じて支払いを請求することができる。」

保管料などの支払いは寄託者がする。しかし、倉庫証券が発行されているときの証券所持人も本条の支払いをしなければ、寄託物の返還を受けられない。
第619条 【保管期間を決めなかったとき】

 当事者カ保管ノ期間ヲ定メサリシトキハ倉庫営業者ハ受寄物入庫ノ日ヨリ六个月ヲ経過シタル後ニ非サレハ其返還ヲ為スコトヲ得ス但已ムコトヲ得サル事由アルトキハ此限ニ在ラス
「当事者が保管期間を決めなかったとき、倉庫営業者は預かった物が倉庫に入った日から6ヶ月間は、これを返還することができない。ただし、やむを得ない事情があるときは、6ヶ月経過しなくても返還することができる。」

本条は民法第663条の特別規定である。やむを得ない事情とは、預かった物が腐敗してその他の物に影響を及ぼすとか、倉庫を修繕するなどの場合である。
第620条 【寄託物の返還】

 預証券及ヒ質入証券ヲ作リタル場合ニ於テハ之ト引換ニ非サレハ寄託物ノ返還ヲ請求スルコトヲ得ス
「預かり証券および質入証券を作成した場合、この二つの証券と引換でなければ、寄託物の返還を請求することができない。」

第621条と第622条は本条の例外である。
第621条 【第620条の例外】

 預証券ノ所持人ハ質入証券ニ記載シタル債権ノ弁済期前ト雖モ其債権ノ全額及ヒ弁済期マテノ利息ヲ倉庫営業者ニ供託シテ寄託物ノ返還ヲ請求スルコトヲ得
「預かり証券の所持人は、質入証券に記載されている債権の弁済期前であっても、その債権全額および弁済期までの利息を、倉庫営業者に供託すれば、寄託物の返還を請求することができる。」

第620条の例外である。
第622条 【第620条の例外】

 @ 寄託物カ同種類ニシテ同一ノ品質ヲ有シ且分割スルコトヲ得ヘキ物ナルトキハ預証券ノ所持人ハ債権額ノ一部及ヒ其弁済期マテノ利息ヲ供託シ其割合ニ応シテ寄託物ノ一部ノ返還ヲ請求スルコトヲ得此場合ニ於テ倉庫営業者ハ供託ヲ受ケタル金額及ヒ返還シタル寄託物ノ数量ヲ預証券ニ記載シ且其旨ヲ帳簿ニ記載スルコトヲ要ス

 A 前項ニ定メタル寄託物ノ一部出庫ニ関スル費用ハ預証券ノ所持人之ヲ負担ス
「@ 複数の寄託物が同種類で、同品質で、分割できる物であるとき、預かり証券の所持人は、債権額の一部とその部分の弁済期までの利息とを倉庫営業者に供託すれば、その割合に応じて寄託物の一部の返還を請求することができる。この場合、倉庫営業者は供託を受けた金額および返還物の数量を預かり証券に記載した上で、そのことを帳簿にも記載しておかなければならない。

A @の規定により、寄託物の一部を返還したときに要した費用は、預かり証券の所持人の負担となる。」
第623条 【前二条の寄託金と質入証券所持人の関係】

 @ 前二条ノ場合ニ於テ質入証券ノ所持人ノ権利ハ供託金ノ上ニ存在ス

 A 第六百十二条ノ規定ハ前条第一項ノ供託金ヲ以テ質入証券ニ記載シタル債権ノ一部ヲ弁済シタル場合ニ之ヲ準用ス
「@ 第621条と第622条の規定により、預かり証券の所持人が供託し、寄託物の返還を受けたとき、質入証券の所持人は、寄託物に対して持っていた権利を失い、代わりに供託金に対して権利を持つことになる。

A 第622条第1項の規定により、寄託物の一部返還のための供託金により、質入証券に記載されている債権の一部を弁済した場合は、第612条の規定が準用される。つまり、倉庫営業者は、支払った金額を質入証券に記載して、その証券を所持人に返還したうえで、そのことを帳簿に記載しなければならない。」
第624条 【倉庫営業者の供託、競売】

 @ 第五百二十四条第一項及ヒ第二項ノ規定ハ寄託者又ハ預証券ノ所持人カ寄託物ヲ受取ルコトヲ拒ミ又ハ之ヲ受取ルコト能ハサル場合ニ之ヲ準用ス此場合ニ於テ質入証券ノ所持人ノ権利ハ競売代金ノ上ニ存在ス

 A 第六百十一条及ヒ第六百十二条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
「@ 倉庫営業者が預かった物を返還しようとしても、寄託者または預かり証券の所持人が受け取ることを拒んだり、受け取ることができないような場合には、第524条第1項と第2項の規定にならい、供託または競売することができる。この場合、質入証券の所持人の権利は、競売代金に対して持つことになる。

A @の場合、第611条および第612条の規定が準用される。つまり、倉庫営業者は、競売代金から、競売費用、保管料、その他の費用を差し引き、その残額を質入証券所持人に支払い、さらに残額があれば、預かり証券所持人に支払うことになる。また、質入証券所持人の債権の一部しか弁済できない場合には、その支払額を質入証券と帳簿に記入し、証券をその所持人に返還する。」
第625条 【倉庫営業者の責任】

 第五百八十八条ノ規定ハ倉庫営業者ニ之ヲ準用ス
「第588条の規定は、倉庫営業者に準用する。」

第588条を倉庫営業者に準用したものは以下である。

「@ 倉庫営業者の責任は、寄託者らが特に何も言わずに寄託物を受け取り、保管料などを支払ったときに消滅する。ただし、寄託物にすぐに発見できないような傷や一部分の滅失があった場合においては、寄託者が引渡しの日から2週間以内に倉庫営業者に対してそのことを通知したときは、倉庫営業者の責任は消滅しない。

A @の規定は、倉庫営業者がわざと傷をつけたり、一部分を滅失したりしたような場合は適用されない。」
第626条 【倉庫営業者の責任の時効】

 @ 寄託物ノ滅失又ハ毀損ニ因リテ生シタル倉庫営業者ノ責任ハ出庫ノ日ヨリ一年ヲ経過シタルトキハ時効ニ因リテ消滅ス

 A 前項ノ期間ハ寄託物ノ全部滅失ノ場合ニ於テハ倉庫営業者カ預証券ノ所持人、若シ其所持人カ知レサルトキハ寄託者ニ対シテ其滅失ノ通知ヲ発シタル日ヨリ之ヲ起算ス

 B 前二項ノ規定ハ倉庫営業者ニ悪意アリタル場合ニハ之ヲ適用セス
「@ 寄託物の滅失や毀損などによって生じた倉庫営業者の責任は、寄託物が倉庫を出た日より1年経過すると、時効によって消滅する。

A 寄託物が全て滅失した場合において、@の1年という期間は、倉庫営業者が預かり証券の所持人に対して、その所持人がわからないときは寄託者に対して、滅失したという通知をした日から起算する。

B 倉庫営業者がわざと損害を発生させるようなことをした場合などには、@とAの規定は適用されない。」

本条は、倉庫営業者の責任について、特別短期時効を規定している。商行為の性質からして期間は1年となっている。ただし、Bのような場合、第522条の規定により5年で時効となる。
第627条 【倉荷証券】

 @ 倉庫営業者ハ寄託者ノ請求アルトキハ預証券及ヒ質入証券ニ代ヘテ倉荷証券ヲ交付スルコトヲ要ス

 A 倉荷証券ニハ預証券ニ関スル規定ヲ準用ス
「@ 倉庫営業者は、寄託者からの請求があるときは、預かり証券および質入証券の代わりに、倉荷証券を交付しなければならない。

A 倉荷証券は、預かり証券に関する規定を準用する。」

倉荷証券のほかに、荷渡し指し図書(荷渡し依頼書、出荷指し図書ともいわれる)が利用されることもある。
第628条 【倉荷証券による一部返還】

 倉荷証券ヲ以テ質権ノ目的ト為シタル場合ニ於テ質権者ノ承諾アルトキハ寄託者ハ債権ノ弁済期前ト雖モ寄託物ノ一部ノ返還ヲ請求スルコトヲ得此場合ニ於テ倉庫営業者ハ返還シタル寄託物ノ種類、品質及ヒ数量ヲ倉荷証券ニ記載シ且其旨ヲ帳簿ニ記載スルコトヲ要ス
「寄託者が倉荷証券で寄託物の質入をしたときは、質権者の承諾があれば寄託者は債権の弁済期前でも寄託物の一部の返還を請求することができる。この場合、倉庫営業者は、返還した寄託物の種類、品質、数量を倉荷証券に記載した上で、そのことを帳簿に記載しておかなければならない。」

寄託物全ての返還を求める場合は、質権者に債務の全部を弁済し倉荷証券の返還を受け、それによって全部返還を倉庫営業者に求めることになる。
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