商法 条文 商法 解説
第3編 海商

第1章 船舶及ヒ船舶所有者
世界の貿易や交通は、陸海空を利用して行われる。地球は陸地よりも海のほうが広く、交易は海を利用することが非常に多い。

商法では、船舶の定義からはじまり、船舶所有者、船長や船員、海上運送に関すること、事故、海上保険などについての規定がされている。
第684条 【船舶の定義】

 @ 本法ニ於テ船舶トハ商行為ヲ為ス目的ヲ以テ航海ノ用ニ供スルモノヲ謂フ

 A 本編ノ規定ハ端舟其他櫓櫂ノミヲ以テ運転シ又ハ主トシテ櫓櫂ヲ以テ運転スル舟ニハ之ヲ適用セス
「@ 商法において、船舶とは商行為をするために航海に使用される船のことである。

A 商法第3編海商の規定は、櫓(ろ)や櫂(かい)だけで動かす小船や、主として櫓や櫂で動かす船には、適用しない。」

商行為とは、第501条から第503条で規定されている。以下を参照。
第501条〜第523条

本編が適用されるのはつまり、商船である。

また、船舶に適用される法律は、船舶法、船舶安全法、船舶積量測度法などの特別法もある。
第685条 【船舶の属具】

 船舶ノ属具目録ニ記載シタル物ハ其従物ト推定ス
「船舶の付属具として、属具目録に記載してある物は、船舶の従物と推定する。」

従物とは、民法の第87条を参照。
第85条〜第89条

つまり、船舶が処分などされた場合、属具も船舶と一緒に処分されるということである(ただし、別の意思表示をした場合は別である)。
第686条 【船舶の登記】

 @ 船舶所有者ハ特別法ノ定ムル所ニ従ヒ登記ヲ為シ且船舶国籍証書ヲ請受クルコトヲ要ス

 A 前項ノ規定ハ総噸数二十噸未満ノ船舶ニハ之ヲ適用セス
「@ 船舶所有者は、特別法(船舶法)に従って、船舶の登記をし、船舶の国籍証書をもらわなければならない。

A @の規定は、総トン数が20トン未満の船舶所有者には適用しない。」

船舶の登記に関する法律は、船舶法である。船舶の登記には、所有権の登記、保存登記、移転登記、賃借権の登記、抵当権の登記がある。

船舶の種類
本編の適用 詳細 担保方法
船舶 あり 登記が必要 抵当権
登記が必要でない(20トン未満) 質権
なし(民法適用) 櫓や櫂を使用 質権
第687条 【所有権移転登記】

 船舶所有権ノ移転ハ其登記ヲ為シ且船舶国籍証書ニ之ヲ記載スルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
「船舶所有権の移転は、所有権の移転登記を受け、そのことを国籍証書に記載しておかなければ、第三者に所有権の移転があったことを主張することはできない。」

第688条 【航海中の所有権譲渡の損益】

 航海中ニ在ル船舶ノ所有権ヲ譲渡シタル場合ニ於テ特約ナキトキハ其航海ニ因リテ生スル損益ハ譲受人ニ帰スヘキモノトス
「航海中の船舶の所有権が譲渡された場合、特約がない限り、その航海中に生じた損益は、譲受人に帰する。」

例えば、航海中のある船の所有者Aが、その船をBに譲り渡したとする。この場合、AとBの間で特別の約束がない限り、航海中の損益はBのものとなる。しかし、AとB以外の第三者に対しては、Aが相手となる。
第689条 【船舶の差押や仮差押の禁止】

 差押及ヒ仮差押ノ執行(仮差押ノ登記ヲ為ス方法ニ依ルモノヲ除ク)ハ発航ノ準備ヲ終ハリタル船舶ニ対シテハ之ヲ為スコトヲ得ス但其船舶カ発航ヲ為ス為メニ生シタル債務ニ付テハ此限ニ在ラス
「出航の準備が終わった船舶は、差押や仮差押ができない。ただし、その船舶が出航準備のために負担した債務があるときは、出航準備が終わったときでも、差押や仮差押ができる。」

差押や仮差押ができない理由は、乗客、貨物の送り主、荷受人などを保護するためである。
第690条 【船長や船員の行為に関する船舶所有者の責任】

 船舶所有者ハ船長其他ノ船員ガ其職務ヲ行フニ当タリ故意又ハ過失ニ因リテ他人ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ズ
「船舶所有者は、船長その他の船員が職務を行うにあたって、故意または過失により他人に加えた損害を賠償しなければならない」

民法第715条の使用者責任の規定では、「被用者の選任や仕事ぶりについて十分監督したにもかかわらず、損害が発生したということを使用者が証明すれば、賠償の責任は負わない」とされているが、船舶所有者の場合は選任・監督について過失があるかないかを問わず、責任を負う。

船長や船員とは、継続的にその船で働いている者以外にも、一時的な水先人や仲仕等も含む。損害とは、債務不履行による損害と不法行為による損害を意味する。

船舶所有者が、責任を制限したいときは、「船舶所有者等の責任の制限に関する法律」に基づく、責任制限手続きの開始を申し立てなければならない。
第691条

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第692条

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第693条 【船舶共有者】

 船舶共有者ノ間ニ在リテハ船舶ノ利用ニ関スル事項ハ各共有者ノ持分ノ価格ニ従ヒ其過半数ヲ以テ之ヲ決ス
「船舶共有者は、船舶の利用に関しては船舶の持分価格に従いその価格の過半数で決定する。」

船舶を共有する場合は、各自が出し合った出資額によって決まる。船舶全体の価格の半分以上を出資している者は、自分だけの意思で船舶の利用方法を決定することができる。
第694条 【船舶共有者の費用負担】

 船舶共有者ハ其持分ノ価格ニ応シ船舶ノ利用ニ関スル費用ヲ負担スルコトヲ要ス
「船舶共有者は、船舶の持分の価格に応じて、船舶の利用に関する費用を負担しなければならない。」
第695条 【決議に対して異議のある者】

 @ 船舶共有者カ新ニ航海ヲ為シ又ハ船舶ノ大修繕ヲ為スヘキコトヲ決議シタルトキハ其決議ニ対シテ異議アル者ハ他ノ共有者ニ対シ相当代価ヲ以テ自己ノ持分ヲ買取ルヘキコトヲ請求スルコトヲ得

 A 前項ノ請求ヲ為サント欲スル者ハ決議ノ日ヨリ三日内ニ他ノ共有者又ハ船舶管理人ニ対シテ其通知ヲ発スルコトヲ要ス但此期間ハ決議ニ加ハラサリシ者ニ付テハ其決議ノ通知ヲ受ケタル日ノ翌日ヨリ之ヲ起算ス
「@ 船舶共有者が、新たに航海に出たり、または、船舶の大修繕を行うことを決議したとき、その決議に異議の船舶共有者は、他の共有者に対して相当の代価と引換に自分の持分を買い取るように請求することができる。

A @の請求をする者は、決議の日から3日以内に他の船舶共有者または船舶管理人に対してその旨の通知をしなければならない。ただし、3日以内という期間は、その決議に参加していなかった者については、決議の結果を受けたときの翌日から起算して3日以内とする。」

第696条 【船舶共有者の債務弁済】

 船舶共有者ハ其持分ノ価格ニ応シ船舶ノ利用ニ付テ生シタル債務ヲ弁済スル責ニ任ス
「船舶共有者は、船舶の持分割合に応じて、船舶の利用から生じた債務を弁済する責任を負う。」

第697条 【損益の分配】

 損益ノ分配ハ毎航海ノ終ニ於テ船舶共有者ノ持分ノ価格ニ応シテ之ヲ為
「損益の分配は、航海が終了するたびに、船舶の持分割合に応じて分配する。」
第698条 【船舶共有者の持分譲渡】

 船舶共有者間ニ組合関係アルトキト雖モ各共有者ハ他ノ共有者ノ承諾ヲ得スシテ其持分ノ全部又ハ一部ヲ他人ニ譲渡スコトヲ得但船舶管理人ハ此限ニ在ラス
「船舶共有者間に組合関係があるときでも、各共有者は他の共有者の承諾なしで、その船舶についての持分の全部または一部を他人に譲渡することができる。ただし、船舶管理人の場合は、他の共有者の承諾が必要である。」

組合とは、民法第667条以下に規定されている。
第12節 組合 第667条〜第688条
第699条 【船舶管理人】

 @ 船舶共有者ハ船舶管理人ヲ選任スルコトヲ要ス

 A 船舶共有者ニ非サル者ヲ船舶管理人ト為スニハ共有者全員ノ同意アルコトヲ要ス

 B 船舶管理人ノ選任及ヒ其代理権ノ消滅ハ之ヲ登記スルコトヲ要ス
「@ 船舶共有者は、船舶管理人を選任しなければならない。

A 船舶共有者ではない者を、船舶管理人にするためには、船舶共有者全員の同意が必要である。

B 船舶管理人の選任および代理権が消滅したときは、そのことについて登記しなければならない。」

船舶管理人の代理権が消滅する事由としては、解任、辞任、死亡などがある。
第700条 【船舶管理人の権限の制限】

 @ 船舶管理人ハ左ニ掲ケタル行為ヲ除ク外船舶共有者ニ代ハリテ船舶ノ利用ニ関スル一切ノ裁判上又ハ裁判外ノ行為ヲ為ス権限ヲ有ス

 1 船舶ノ譲渡若クハ賃貸ヲ為シ又ハ之ヲ抵当ト為スコト

 2 船舶ヲ保険ニ付スルコト

 3 新ニ航海ヲ為スコト

 4 船舶ノ大修繕ヲ為スコト

 5 借財ヲ為スコト

 A 船舶管理人ノ代理権ニ加ヘタル制限ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
「@ 船舶管理人は、次の1から5に関する事項を除いて、船舶共有者に代わって、船舶の利用に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限をもつ。

1 船舶の譲渡、船舶の賃貸、船舶を抵当に入れること
2 船舶に保険をかけること
3 新たに船舶を航海に出すこと
4 船舶の大修繕を行うこと
5 金銭の借入れをすること

A 船舶管理人の代理権の一部に制限を加えた場合、そのことを知らない善意の第三者に、代理権の一部制限を主張することはできない。」

本条は船舶管理人の権限などについての規定である。
第701条 【船舶管理人の義務】

 @ 船舶管理人ハ特ニ帳簿ヲ備ヘ之ニ船舶ノ利用ニ関スル一切ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス

 A 船舶管理人ハ毎航海ノ終ニ於テ遅滞ナク其航海ニ関スル計算ヲ為シテ各船舶共有者ノ承認ヲ求ムルコトヲ要ス
「@ 船舶管理人は、特に帳簿を備えて、船舶の利用に関する一切の事項を記載しなければならない。

A 船舶管理人は、航海ごとに、航海終了後、すぐに航海についての収入や支出の計算をし、各船舶共有者の承認を受けなければならない。」

本条は船舶管理人についての規定である。
第702条 【船舶の国籍が失われる場合】

 @ 船舶共有者ノ持分ノ移転又ハ其国籍喪失ニ因リテ船舶カ日本ノ国籍ヲ喪失スヘキトキハ他ノ共有者ハ相当代価ヲ以テ其持分ヲ買取リ又ハ其競売ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得

 A 社員ノ持分ノ移転ニ因リ会社ノ所有ニ属スル船舶カ日本ノ国籍ヲ喪失スヘキトキハ合名会社ニ在テハ他ノ社員、合資会社ニ在テハ他ノ無限責任社員ハ相当代価ヲ以テ其持分ヲ買取ルコトヲ得
「@ 船舶共有者の持分が移転または船舶共有者の誰かが日本国籍を失ったことにより、その船舶が日本国籍を失うことになるときは、他の船舶共有者は相当の代金を出して、その船舶共有者の持分を買い取るか、または、その持分自体を競売するように裁判所に請求することができる。

A 会社の社員(合名会社や合資会社の社員のこと)の持分が移転したことにより、その船舶が日本国籍を失うことになるときは、合名会社であれば他の社員、合資会社であれば他の無限責任社員は、相当の代金を出して、その船舶共有者の持分を買い取ることができる。」

第703条 【船舶の賃貸借の登記】

 船舶ノ賃貸借ハ之ヲ登記シタルトキハ爾後其船舶ニ付キ物権ヲ取得シタル者ニ対シテモ其効力ヲ生ス
「船舶を賃貸借した場合、賃貸借の登記をしておけば、登記後にその船舶に対して物権(所有権や抵当権など)を取得した第三者に対しても、賃貸借を主張することができる。」

例えば、AがBが船舶を賃貸借したとする。Aはそのことを登記しておけば、後に、BがCに船舶を譲渡したとしても、AはCに対して賃貸借を主張して船舶を利用することができる。

日本の商法では、船舶の賃貸借と用船とは区別されている(米英では区別されていない)。以下の表を参照。
船舶の占有権 船長の任免権 第三者との関係
船舶の賃貸借契約 賃借人にある 賃借人にある 賃借人が所有者と同一の権利義務を持つ
用船契約 所有者にある 所有者にある 所有者が権利義務を持つ
※ただし、両者を区別することが困難な場合もある。
第704条 【船舶の賃借人と所有者と第三者】

 @ 船舶ノ賃借人カ商行為ヲ為ス目的ヲ以テ其船舶ヲ航海ノ用ニ供シタルトキハ其利用ニ関スル事項ニ付テハ第三者ニ対シテ船舶所有者ト同一ノ権利義務ヲ有ス

 A 前項ノ場合ニ於テ船舶ノ利用ニ付キ生シタル先取特権ハ船舶所有者ニ対シテモ其効力ヲ生ス但先取特権者カ其利用ノ契約ニ反スルコトヲ知レルトキハ此限ニ在ラス
「@ 船舶の賃借人が商行為をする目的で船舶を航海に出したとき、賃借人はその利用上の事項について、第三者に対して船舶所有者と同一の権利義務を持つ。

A @の場合において、船舶の利用から生じた先取特権は船舶所有者に対してもその効力を生じる。ただし、その先取特権を持つ者が、賃借人と船舶所有者の間で決まった利用契約に反していることを知った上で、先取特権を取得した場合は、効力は生じない。」

船舶の賃借人は、船舶の利用に関する事柄については、第三者に対して船舶所有者と同一の権利義務を持つ。そのため、その船長や船員が第三者に与えた損害も賠償する責任がある。ただし、船主責任制限法により、その責任を制限することができる(船主責任制限法第2条第1項第1号)。

Aについては、先取特権は船舶に対してその権利を行使できなければ意味がないため、船舶所有者に対してもその効力が生じることになる。
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