商法 条文 商法 解説
第3編 海商

第3章 船長

第1節 物品運送

第1款 総則
本章は海上運送についての規定である。

船積み港または陸揚げ港 適用法
内航船 日本内にある 商法
外航船 日本外にある 国際海上物品運送法

第1節では、海上運送に関する一般原則や船荷証券についての規定である。第2節は、旅客運送についての規定である。
第737条 【船舶の全部または一部を貸し切る運送契約】

 船舶ノ全部又ハ一部ヲ以テ運送契約ノ目的ト為シタルトキハ各当事者ハ相手方ノ請求ニ因リ運送契約書ヲ交付スルコトヲ要ス
「船舶の全部または一部を貸し切って、運送契約をしたときは、各当事者は相手方の請求があれば、運送契約書を交付しなければならない。」

本条は、用船契約(傭船契約)についての規定である。この契約は、船舶自体を借りるのではなく、貸し切って運転するような契約のことである(修学旅行などの、電車やバスの貸し切り運転に似てる。)。

用船契約には以下のような種類がある。
種類 名前 説明
用船の範囲 全部用船 船腹の全部を貸し切って運送する
一部用船 船腹の一部を貸し切って運送する
用船の期間 航海用船 一航海または数航海について船腹を貸し切って運送する
定期用船 ある一定期間について船腹を貸し切って運送する
混合用船 航海用船と定期用船が混合したものである
※この他に、船舶の賃貸借という方法もある。
※船腹を貸しきらずに個々の貨物の運送をする場合を、個品運送という。今現在では、一定の航路を定期的に航行して行う定期個品運送が最も一般的である。
第738条 【堪航能力】

 船舶所有者ハ傭船者又ハ荷送人ニ対シ発航ノ当時船舶カ安全ニ航海ヲ為スニ堪フルコトヲ担保ス
「船舶所有者は傭船者または荷送人に対して、航海に出る時、その船舶が安全に航海できる能力があることを保証し、その責任を負う。」

船舶が安全に航海できる能力のことを、堪航能力(たんこうのうりょく)という。船舶そのもの以外に、船舶の整備、船員、食料など総合的に判断される。
第739条 【特約があっても責任を負う】

 船舶所有者ハ特約ヲ為シタルトキト雖モ自己ノ過失、船員其他ノ使用人ノ悪意若クハ重大ナル過失又ハ船舶カ航海ニ堪ヘサルニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ヲ免ルルコトヲ得ス
「船舶所有者は、特別の約束をしたときであっても、自分の過失、船員その他の使用人の故意もしくは重過失、または船舶の堪航能力の欠如によって生じた損害を賠償する責任を負う。」

運送人の運送品に関する不注意のうち、航海上の過失を除いたものを商業上の過失という。

国際海上物品運送法3条では、運送人は商業上の過失だけ責任を負うとされている。しかし、商法では、本条にあるように商業上の過失などの区別はなく責任を負うと規定されているため、日本国内船のほうが外航船よりも責任が重いということになる。
第740条 【法令や契約違反の積荷】

 @ 法令ニ違反シ又ハ契約ニ依ラスシテ船積シタル運送品ハ船長ニ於テ何時ニテモ之ヲ陸揚シ、若シ船舶又ハ積荷ニ危害ヲ及ホス虞アルトキハ之ヲ放棄スルコトヲ得但船長カ之ヲ運送スルトキハ其船積ノ地及ヒ時ニ於ケル同種ノ運送品ノ最高ノ運送賃ヲ請求スルコトヲ得

 A 前項ノ規定ハ船舶所有者其他ノ利害関係人カ損害賠償ノ請求ヲ為スコトヲ妨ケス
「@ 法令に違反しまたは契約によらないで船積みされた運送品に関して、船長はいつでもそれを陸揚げすることができる。もし、船舶または他の積荷に危害を与えるような恐れがあるときは、それを放棄することができる。ただし、船長がそれを運送するときは、船積みした港および船積みした時において、同種の運送品の最高の運送賃を請求することができる。

A @の規定は、船舶所有者、その他の利害関係人は、積荷の所有者に対して損害賠償を請求することができる。」

Aは、運送をし同種の運送品の最高の運送賃を請求した上でも、損害賠償を請求することができる。
第741条 【船積みの通知】

 @ 船舶ノ全部ヲ以テ運送契約ノ目的ト為シタル場合ニ於テ運送品ヲ船積スルニ必要ナル準備カ整頓シタルトキハ船舶所有者ハ遅滞ナク傭船者ニ対シテ其通知ヲ発スルコトヲ要ス

 A 傭船者カ運送品ヲ船積スヘキ期間ノ定アル場合ニ於テハ其期間ハ前項ノ通知アリタル日ノ翌日ヨリ之ヲ起算ス其期間経過ノ後運送品ヲ船積シタルトキハ船舶所有者ハ特約ナキトキト雖モ相当ノ報酬ヲ請求スルコトヲ

 B 前項ノ期間中ニハ不可抗力ニ因リテ船積ヲ為スコト能ハサル日ヲ算入セス
「@ 船舶全部を貸し切り扱いした場合に、運送品を船積みするのに必要な準備が整ったときは、船舶所有者はすぐに傭船者に対してその旨の通知をしなければならない。

A 傭船者が運送品を船積みする期間を決めた場合においては、その期間は、@の通知があった日の翌日より起算する。その期間が経過した後で、運送品を船積みしたとき、船舶所有者は特別な約束がないときでも、相当の報酬を請求することができる。

B Aの船積み期間において、不可抗力によって船積みができない日があれば、その日は期間に参入しない。」

この通知は船積み期間の起算点を決めることになるため、重要である。
第742条 【傭船者以外の者が船積みをする場合】

 船長カ第三者ヨリ運送品ヲ受取ルヘキ場合ニ於テ其者ヲ確知スルコト能ハサルトキ又ハ其者カ運送品ヲ船積セサルトキハ船長ハ直チニ傭船者ニ対シテ其通知ヲ発スルコトヲ要ス此場合ニ於テハ船積期間内ニ限リ傭船者ニ於テ運送品ヲ船積スルコトヲ得
「傭船者でない者が運送品を船積みする場合において、船長が船積み人を確認できないとき、または船積み人が運送品を船積みしないときは、船長はただちに傭船者に対してそのことを通知しなければならない。この場合において、船積み期間中に限り、傭船者は運送品を船積みすることができる。」

傭船者でない者とは、傭船者が船積みを依頼した沿岸荷役業者などのことである。
第743条 【全部が船積みされる前の発航】

 @ 傭船者ハ運送品ノ全部ヲ船積セサルトキト雖モ船長ニ対シテ発航ノ請求ヲ為スコトヲ得

 A 傭船者カ前項ノ請求ヲ為シタルトキハ運送賃ノ全額ノ外運送品ノ全部ヲ船積セサルニ因リテ生シタル費用ヲ支払ヒ尚ホ船舶所有者ノ請求アルトキハ相当ノ担保ヲ供スルコトヲ要ス
「@ 傭船者は運送品の全部を船積みしなかったときでも、船長に対して、船を発航させるよう請求することができる。

A 傭船者が@の請求をしたときは、運送賃全額のほか、運送品の全部を船積みしないことによって生じた費用を支払わなければならない。なほ、船舶所有者の請求があるときは、相当の担保を提供しなければならない。」

傭船者は船積みが全部終わらないうちに、発航するように請求することができるが、船腹の一部を傭船したものは、他の者の全員の同意が必要である。この請求がなければ、発航することはできない。

また、全部終わらずに発航する場合、積み付けを変更しなければならず、その場合、船の底に積み込む底荷が必要となったりすることもあり、費用が新たにかかった場合は、傭船者が支払う必要がある。
第744条 【船長の発航権利】

 @ 船積期間経過ノ後ハ傭船者カ運送品ノ全部ヲ船積セサルトキト雖モ船長ハ直チニ発航ヲ為スコトヲ得

 A 前条第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
「@ 船積み期間が経過した後、傭船者が運送品の全部を船積みしないときでも、船長はただちに発航することができる。

A 第743条のAの規定は、@の場合に準用する。」

船舶の発航時期がずれると、航海の予定そのものも狂うため、船長に発航の権限が与えられている。
第745条 【発航前の契約の解除】

 @ 発航前ニ於テハ傭船者ハ運送賃ノ半額ヲ支払ヒテ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得

 A 往復航海ヲ為スヘキ場合ニ於テ傭船者カ其帰航ノ発航前ニ契約ノ解除ヲ為シタルトキハ運送賃ノ三分ノ二ヲ支払フコトヲ要ス他港ヨリ船積港ニ航行スヘキ場合ニ於テ傭船者カ其船積港ヲ発スル前ニ契約ノ解除ヲ為シタルトキ亦同シ

 B 運送品ノ全部又ハ一部ヲ船積シタル後前二項ノ規定ニ従ヒテ契約ノ解除ヲ為シタルトキハ其船積及ヒ陸揚ノ費用ハ傭船者之ヲ負担ス

 C 傭船者カ船積期間内ニ運送品ノ船積ヲ為ササリシトキハ契約ノ解除ヲ為シタルモノト看做ス
「@ 発航前においては、傭船者は運送賃の半額を支払うことによって、契約の解除をすることができる。

A 往復の航海の場合、傭船者が帰りの航海の発航前に、契約を解除したときは、運送賃の3分の2を支払わなければならない。船舶が船積み港以外の港で、船積み港に航行する場合において、傭船者がその船積み港を発航する前に契約を解除したときも、運送賃の3分の2を支払わなければならない。

B 運送品の全部または一部を船積みした後、@とAの規定に従って契約を解除したときは、その船積みおよび陸揚げの費用は傭船者が負担する。

C 傭船者が船積み期間中に、運送品の船積みをしないときは、契約の解除をしたものとみなす。」

第746条 【契約解除をしたときの費用】

 @ 傭船者カ前条ノ規定ニ従ヒテ契約ノ解除ヲ為シタルトキト雖モ附随ノ費用及ヒ立替金ヲ支払フ責ヲ免ルルコトヲ得ス

 A 前条第二項ノ場合ニ於テハ傭船者ハ前項ニ掲ケタルモノノ外運送品ノ価格ニ応シ共同海損又ハ救助ノ為メ負担スヘキ金額ヲ支払フコトヲ要ス
「@ 傭船者が第745条の規定に従って、契約の解除をしたときでも、付随費用と立替金を支払う責任を負う。

A 第745条のAの場合、傭船者は運賃の3分の2の他に、共同海損(第788条)または救助のために負担しなければならない金額を、運送品の価格に応じて支払わなければならない。」

第747条 【発航後の契約解除】

 発航後ニ於テハ傭船者ハ運送賃ノ全額ヲ支払フ外第七百五十三条第一項ニ定メタル債務ヲ弁済シ且陸揚ノ為メニ生スヘキ損害ヲ賠償シ又ハ相当ノ担保ヲ供スルニ非サレハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得ス
「発航後においては、傭船者は運送賃の全額を支払うほか、第753条第1項の債務を弁済し、かつ、陸揚げのために生じた損害を賠償し、または、相当の担保を提供しなければ、契約の解除をすることができない。」

第753条第1項の債務とは、付随費用、立替金、港の滞泊料、その他の費用のことである。

傭船者は本条が定めた金額を支払わなくても契約を解除することはできるが、支払う義務は負わなければならない。
第748条 【船舶の一部傭船】

 @ 船舶ノ一部ヲ以テ運送契約ノ目的ト為シタル場合ニ於テ傭船者カ他ノ傭船者及ヒ荷送人ト共同セスシテ発航前ニ契約ノ解除ヲ為シタルトキハ運送賃ノ全額ヲ支払フコトヲ要ス但船舶所有者カ他ノ運送品ヨリ得タル運送賃ハ之ヲ控除ス

 A 発航前ト雖モ傭船者カ既ニ運送品ノ全部又ハ一部ヲ船積シタルトキハ他ノ傭船者及ヒ荷送人ノ同意ヲ得ルニ非サレハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得ス

 B 前七条ノ規定ハ船舶ノ一部ヲ以テ運送契約ノ目的ト為シタル場合ニ之ヲ準用ス
「@ 船舶の一部を貸し切る方法で運送契約をした場合、傭船者が他の傭船者および荷送人と共同しないで、発航前に契約の解除をしたときは、運送賃の全額を支払わなければならない。ただし、船舶所有者が他の運送品から得た運送賃は控除する。

A 発航前であっても、傭船者がすでに運送品の全部または一部を船積みしたときは、他の傭船者および荷送人の同意を得なければ契約の解除をすることはできない。

B 第741条から第747条までの規定は、船舶の一部を貸し切る方法での契約においても準用する。」

第749条 【個品運送】

 @ 箇箇ノ運送品ヲ以テ運送契約ノ目的ト為シタルトキハ荷送人ハ船長ノ指図ニ従ヒ遅滞ナク運送品ヲ船積スルコトヲ要ス

 A 荷送人カ運送品ノ船積ヲ怠リタルトキハ船長ハ直チニ発航ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ荷送人ハ運送賃ノ全額ヲ支払フコトヲ要ス但船舶所有者カ他ノ運送品ヨリ得タル運送賃ハ之ヲ控除ス
「@ 個々の運送品のための運送契約のときは、荷送人は船長の指図に従って、すぐに運送品を船積みしなければならない。

A 荷送人が運送品の船積みを怠ったときは、船長はただちに発航することができる。この場合、荷送人は運送賃の全額を支払わなければならない。ただし、船舶所有者が他の運送品より得た運送賃は控除する。」

本条はつまり、個品運送のための規定である。
第750条 【荷送人の契約解除】

 第七百四十八条ノ規定ハ荷送人カ契約ノ解除ヲ為ス場合ニ之ヲ準用ス
「荷送人が出航前に、個品運送契約の解除をした場合、第748条の規定を準用する。」
第751条 【運送に必要な書類の交付】

 傭船者又ハ荷送人ハ船積期間内ニ運送ニ必要ナル書類ヲ船長ニ交付スルコトヲ要ス
「傭船者または荷送人は船積み期間内に、運送に必要な書類を、船長に交付しなければならない。」

運送に必要な書類とは、運送契約書などのことである。
第752条 【運送品の陸揚げ】

 @ 船舶ノ全部又ハ一部ヲ以テ運送契約ノ目的ト為シタル場合ニ於テ運送品ヲ陸揚スルニ必要ナル準備カ整頓シタルトキハ船長ハ遅滞ナク荷受人ニ対シテ其通知ヲ発スルコトヲ要ス

 A 運送品ヲ陸揚スヘキ期間ノ定アル場合ニ於テハ其期間ハ前項ノ通知アリタル日ノ翌日ヨリ之ヲ起算ス其期間経過ノ後運送品ヲ陸揚シタルトキハ船舶所有者ハ特約ナキトキト雖モ相当ノ報酬ヲ請求スルコトヲ得

 B 前項ノ期間中ニハ不可抗力ニ因リテ陸揚ヲ為スコト能ハサル日ヲ算入セス

 C 箇箇ノ運送品ヲ以テ運送契約ノ目的ト為シタルトキハ荷受人ハ船長ノ指図ニ従ヒ遅滞ナク運送品ヲ陸揚スルコトヲ要ス
「@ 船舶の全部または一部の運送契約をした場合、運送品を陸揚げするのに必要な準備が整ったとき、船長はすぐに荷受人に対してその旨の通知をしなければならない。

A 運送品を陸揚げすべき期間に決まりがある場合、その期間は@の通知があった日の翌日より起算する。その期間経過後に、運送品を陸揚げしたときは、船舶所有者は特約がなくても、相当の報酬を請求することができる。

B 不可抗力によって陸揚げすることができなかった期間は、Aの陸揚げ期間には入れない。

C 個品運送契約の場合は、荷受人は船長の指図に従ってすぐに運送品を陸揚げしなければならない。」

@の通知をするとき、船長は荷受人がわからないときがある。船荷証券が発行され、流通するため、その所持人がわからないためである。このような場合、陸揚げ港で慣習となっている、公告方法をとればよい。

陸揚げ費用は、通常、船倉から船側までは船舶所有者、船側から陸揚げするまでは荷受人が負担するとされている。船舶所有者が負担する荷卸し費用は運賃の中に含まれている。これをバース・タームの料率という。
第753条 【荷受人の義務と運送品の引渡し】

 @ 荷受人カ運送品ヲ受取リタルトキハ運送契約又ハ船荷証券ノ趣旨ニ従ヒ運送賃、附随ノ費用、立替金、碇泊料及ヒ運送品ノ価格ニ応シ共同海損又ハ救助ノ為メ負担スヘキ金額ヲ支払フ義務ヲ負フ

 A 船長ハ前項ニ定メタル金額ノ支払ト引換ニ非サレハ運送品ヲ引渡スコトヲ要セス
「@ 荷受人が運送品を受け取ったときは、運送契約または船荷証券の記載事項に従って、運送賃、付随費用、立替金、滞泊料、運送品の価格に応じた共同海損または救助のための負担金を支払い義務を負う。

A 船長は@の金額の支払いと引換でなければ、運送品を引き渡さなくてもよい。」

運賃は原則として、自由競争によって決まる。しかし、通常は品目別の協定運賃率が作成されており、それに従う。

運賃は純粋の運送の対価である運賃と、積むときと揚げるときの船内の荷役費を含んでいる。これを、バース・タームまたはライナー・ターム運賃という。
第754条 【積荷の供託】

 @ 荷受人カ運送品ヲ受取ルコトヲ怠リタルトキハ船長ハ之ヲ供託スルコトヲ得此場合ニ於テハ遅滞ナク荷受人ニ対シテ其通知ヲ発スルコトヲ要ス

 A 荷受人ヲ確知スルコト能ハサルトキ又ハ荷受人カ運送品ヲ受取ルコトヲ拒ミタルトキハ船長ハ運送品ヲ供託スルコトヲ要ス此場合ニ於テハ遅滞ナク傭船者又ハ荷送人ニ対シテ其通知ヲ発スルコトヲ要ス
「@ 荷受人が運送品を受け取らないときは、船長は運送品を供託することができる。この場合、すぐに荷受人に対してその旨の通知をしなければならない。

A 荷受人がわからないとき、または、荷受人が運送品を受け取ることを拒んだとき、船長は運送品を供託しなければならない。この場合、すぐに傭船者または荷送人に対してその旨の通知をしなければならない。」

荷受人が運送品を受け取らない場合、その船は次の航海をすることができなくなるため、本条の規定がある。
第755条 【重量や容積で運送賃を決めたとき】

 運送品ノ重量又ハ容積ヲ以テ運送賃ヲ定メタルトキハ其額ハ運送品引渡ノ当時ニ於ケル重量又ハ容積ニ依リテ之ヲ定ム
「運送品の重量または容積で運送賃を決めたときは、その額は運送品を引き渡す時の重量または容積による。」

運送品は航海中に重量や容積が変化することもあるため、本条の規定がある。

しかし、実際的には約款などで、荷受時に運賃が決まることが多い。
第756条 【期間を基準とする運送賃の計算】

 期間ヲ以テ運送賃ヲ定メタルトキハ其額ハ運送品ノ船積著手ノ日ヨリ其陸揚終了ノ日マテノ期間ニ依リテ之ヲ定ム但船舶カ不可抗力ニ因リ発航港若クハ航海ノ途中ニ於テ碇泊ヲ為スヘキトキ又ハ航海ノ途中ニ於テ船舶ヲ修繕スヘキトキハ其期間ハ之ヲ算入セス第七百四十一条第二項又ハ第七百五十二条第二項ノ場合ニ於テ船積期間又ハ陸揚期間経過ノ後運送品ノ船積又ハ陸揚ヲ為シタル日数亦同シ
「期間を基準として運送賃を決めたとき、その金額は運送品の船積みをはじめた日から陸揚げを終えた日までの期間により決める。ただし、船舶が不可抗力により発航港もしくは航海の途中で滞泊したときまたは航海の途中で船舶を修繕したときは、その期間を入れない。第741条第2項または第752条第2項の場合、船積み期間または陸揚げ期間経過後、運送品の船積みまたは陸揚げをした日数も、運送賃を決める期間に入れない。」

第757条 【船舶所有者が運送品を競売できる場合】

 @ 船舶所有者ハ第七百五十三条第一項ニ定メタル金額ノ支払ヲ受クル為メ裁判所ノ許可ヲ得テ運送品ヲ競売スルコトヲ得

 A 前項ノ許可ニ係ル事件ハ同項ノ運送品ノ所在地ノ地方裁判所之ヲ管轄ス

 B 船長カ荷受人ニ運送品ヲ引渡シタル後ト雖モ船舶所有者ハ其運送品ノ上ニ権利ヲ行使スルコトヲ得但引渡ノ日ヨリ二週間ヲ経過シタルトキ又ハ第三者カ其占有ヲ取得シタルトキハ此限ニ在ラス
「@ 船舶所有者は、第753条第1項の金額の支払いを受けるため、裁判所の許可を得て、運送品を競売することができる。

A @の許可に関わる事件は、運送品の所在地の地方裁判所が管轄する。

B 船長が荷受人に運送品を引き渡した後であっても、船舶所有者はその運送品の競売申し立ての権利を持つ。ただし、引渡し日より2週間経過したとき、または、第三者がその運送品を占有することになったときは、競売申し立ての権利を失う。」

積荷の引渡しの後でも、競売の申し立てができるというのが特色である。積荷を留置しておくとなれば、船舶所有者にとって不便だからである。
第758条 【船舶所有者が競売をしないとき】

 船舶所有者カ前条ニ定メタル権利ヲ行ハサルトキハ傭船者又ハ荷送人ニ対スル請求権ヲ失フ但傭船者又ハ荷送人ハ其受ケタル利益ノ限度ニ於テ償還ヲ為スコトヲ要ス
「船舶所有者が第757条の権利を行わないとき、傭船者または荷送人に対する請求権を失う。ただし、傭船者または荷送人は利益を得ることになるため、その利益の範囲内で、利益を船舶所有者に償還する必要がある。」

第759条 【傭船者がさらに第三者と契約をした場合】

 船舶ノ全部又ハ一部ヲ以テ運送契約ノ目的ト為シタル場合ニ於テ傭船者カ更ニ第三者ト運送契約ヲ為シタルトキハ其契約ノ履行カ船長ノ職務ニ属スル範囲内ニ於テハ船舶所有者ノミ其第三者ニ対シテ履行ノ責ニ任ス
「船舶の全部または一部を運送する契約をした場合、傭船者がさらに第三者と運送契約をしたとき、その運送契約を履行することが、船長の通常の職務の範囲内のことであれば、船舶所有者だけがその第三者に対して履行の責任を負う。」

本条は再運送についての規定である。これは元の契約において禁止されていれば、行うことができない。
第760条 【全部用船契約の終了事由】

 @ 船舶ノ全部ヲ以テ運送契約ノ目的ト為シタル場合ニ於テハ其契約ハ左ノ事由ニ因リテ終了ス

 1 船舶ガ沈没シタルコト

 2 船舶ガ修繕スルコト能ハザルニ至リタルコト

 3 船舶ガ捕獲セラレタルコト

 4 運送品カ不可抗力ニ因リテ滅失シタルコト

 A 前項第一号乃至第三号ニ掲ケタル事由カ航海中ニ生シタルトキハ傭船者ハ運送ノ割合ニ応シ運送品ノ価格ヲ超エサル限度ニ於テ運送賃ヲ支払フコトヲ要ス
「@ 全部用船契約は、次の1から4の場合に終了する。

1 船舶が沈没したとき
2 船舶が修繕できない状態になったとき
3 船舶が捕らえられた時
4 運送品が不可抗力により滅失したとき

A @の1から3が航海中に生じたときは、傭船者はそれまで行われた運送の割合に応じて、運送品の価格を超えない範囲内で、運送賃を支払わなければならない。」

@は、契約の当事者が意思表示をしなくても、契約を終了させる事由である。ただし、当事者のどちらにも責任がないことが前提である。

また、第762条と第763条も参照。
第761条 【全部傭船契約を不可抗力などを理由に契約解除する場合】

 @ 航海又ハ運送カ法令ニ反スルニ至リタルトキ其他不可抗力ニ因リテ契約ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサルニ至リタルトキハ各当事者ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得

 A 前項ニ掲ケタル事由カ発航後ニ生シタル場合ニ於テ契約ノ解除ヲ為シタルトキハ傭船者ハ運送ノ割合ニ応シテ運送賃ヲ支払フコトヲ要ス
「@ 航海または運送が法令に違反することになったとき、その他不可抗力によって契約をした目的を達成することができなくなったとき、当事者はどちらからでも契約を解除することができる。

A @の事由が発航後に生じた場合、契約の解除をするときは傭船者は、すでに行われた運送の割合に応じて運送賃を支払わなければならない。」

何らかの理由で目的港への航行が禁止されたとか、品物が輸出入禁止になったとかが法令違反に該当する。不可抗力とは戦争の勃発などである。

解除となった場合、運送業者は傭船者のために立て替えられた金額や滞泊料などは請求することができる。
第762条 【全部傭船の運送品の一部について不可抗力の事由が発生したとき】

 @ 第七百六十条第一項第四号及ヒ前条第一項ニ掲ケタル事由カ運送品ノ一部ニ付テ生シタルトキハ傭船者ハ船舶所有者ノ負担ヲ重カラシメサル範囲内ニ於テ他ノ運送品ヲ船積スルコトヲ得

 A 傭船者カ前項ニ定メタル権利ヲ行ハント欲スルトキハ遅滞ナク運送品ノ陸揚又ハ船積ヲ為スコトヲ要ス若シ其陸揚又ハ船積ヲ怠リタルトキハ運送賃ノ全額ヲ支払フコトヲ要ス
「@ 第760条第1項第4号および第761条第1項の事由が、運送品の一部について生じたとき、傭船者は船舶所有者の負担を重くしない範囲内で他の運送品を船積みすることができる。

A 傭船者が@の権利を行いたいときは、すぐに運送品の陸揚げまたは船積みをしなければならない。もし、陸揚げまたは船積みを怠ったときは、運送賃の全額を支払わなければならない。」

本条の規定は、全部傭船の場合についてである。次の第763条は一部傭船などについての規定である。
第763条 【一部傭船や個品運送の場合の契約終了事由など】

 @ 第七百六十条及ヒ第七百六十一条ノ規定ハ船舶ノ一部又ハ箇箇ノ運送品ヲ以テ運送契約ノ目的ト為シタル場合ニ之ヲ準用ス

 A 第七百六十条第一項第四号及ヒ第七百六十一条第一項ニ掲ケタル事由カ運送品ノ一部ニ付テ生シタルトキト雖モ傭船者又ハ荷送人ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得但運送賃ノ全額ヲ支払フコトヲ要ス
「@ 第760条および第761条の規定は、船舶の一部または個品での運送契約の場合について準用する。

A 第760条第1項第4号および第761条第1項の事由が運送品の一部について生じたときでも、傭船者または荷送人は契約の解除をすることができる。ただし、運送賃の全額を支払わなければならない。」

第760条と第761条は全部傭船についての規定である。その規定が、一部または個品運送についても準用されるということである。
第764条 【船長が積荷を処分したときの運送賃】

 船舶所有者ハ左ノ場合ニ於テハ運送賃ノ全額ヲ請求スルコトヲ得

 1 船長カ第七百十五条第一項ノ規定ニ従ヒテ積荷ヲ売却又ハ質入シタルトキ

 2 船長カ第七百十九条ノ規定ニ従ヒテ積荷ヲ航海ノ用ニ供シタルトキ

 3 船長カ第七百八十八条ノ規定ニ従ヒテ積荷ヲ処分シタルトキ
「船舶所有者は、次の1から3の場合において、運送賃の全額を請求することができる。

1 船長が第715条第1項の規定に従って、積荷を売却または質入したとき
2 船長が第719条の規定に従って、積荷を航海のために使用したとき
3 船長が第788条の規定に従って、積荷を処分したとき」

1号から3号について、船長はやむを得なく積荷の処分をするため、運送賃を請求することができる。ただし、逆に、積荷に与えた損害を賠償しなければならない。
第765条 【船舶所有者の債権】

 船舶所有者ノ傭船者、荷送人又ハ荷受人ニ対スル債権ハ一年ヲ経過シタルトキハ時効ニ因リテ消滅ス
「船舶所有者が、傭船者や荷送人や荷受人に対して持っている債権は、1年経過したときに、時効により消滅する。」

債権とは、運送賃、付随費用、立替金、共同海損、救助費用分担金、滞船料などがある。
第766条 【陸上運送規定の準用】

 第五百六十六条、第五百七十六条乃至第五百八十一条及ヒ第五百八十八条ノ規定ハ船舶所有者ニ之ヲ準用ス
「第566条、第576条から第581条、第588条の規定は、船舶所有者について準用する。」

それぞれの条文については以下を参照。
第559条〜第568条
第570条〜第589条
条文 説明
第566条 運送取扱人の責任についての短期消滅時効
第576条 運送品が滅失した場合
第577条 運送人が損賠賠償責任を負う場合
第578条 高価品について
第579条 相次運送
第580条 損額賠償額の決定
第581条 運送人が運送品を滅失などした場合
第588条 運送人の責任が消滅する場合
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