商法 条文 商法 解説
第3編 海商

第3章 船長

第2節 旅客運送
本節は海上旅客運送についての規定である。旅客を一定の期間内に、安全、敏速、快適に、乗船地から上陸地まで輸送するための規定である。

また、商法の規定とは別に、人命保護のためにする一般的取締り規則がある。
第777条 【記名式乗船切符】

 記名ノ乗船切符ハ之ヲ他人ニ譲渡スコトヲ得ス
「乗船者の名前を記名してある乗船切符は、他人に譲渡することができない。」

名前の記名されている乗車切符の譲渡ができないのは、乗客が変更したのでは、事故やその他の問題が起こったときに、支障が出るとう理由からである。

名前の記名されていない無記名の乗船切符は他人に譲渡することができる。
第778条 【航海中の食料】

 旅客ノ航海中ノ食料ハ船舶所有者ノ負担トス
「旅客の航海中の食料は船舶所有者の負担とする。」

航海中の旅客の健康維持に必要な食料を船舶所有者が負担しなければならない。お酒は必ずしも提供する必要はないが、一等船客などには無料サービスされているのが普通である。
第779条 【手荷物】

 旅客カ契約ニ依リ船中ニ携帯スルコトヲ得ル手荷物ニ付テハ船舶所有者ハ特約アルニ非サレハ別ニ運送賃ヲ請求スルコトヲ得ス
「旅客が旅客運送条項によって船の中で携帯することができる手荷物については、船舶所有者は特別の約束がない限り、手荷物の運送賃を請求することはできない。」

無料で携帯できる荷物の量は、船室の等級によって決まることが多い。
第780条 【旅客が乗船時期までに乗船しない場合】

 旅客カ乗船時期マテニ船舶ニ乗込マサルトキハ船長ハ発航ヲ為シ又ハ航海ヲ継続スルコトヲ得此場合ニ於テハ旅客ハ運送賃ノ全額ヲ支払フコトヲ要ス
「旅客が乗船時間までに船舶に乗り込まないときは、船長は発航したり、航海を継続したりすることができる。この場合、旅客は運送賃の全額を支払わなければならない。」

第781条 【旅客からの契約解除】

 @ 発航前ニ於テハ旅客ハ運送賃ノ半額ヲ支払ヒテ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得

 A 発航後ニ於テハ旅客ハ運送賃ノ全額ヲ支払フニ非サレハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得ス
「@ 発航前であれば、旅客は運送賃の半額を支払って、契約を解除することができる。

A 発航後においては、旅客は運送賃の全額を支払わなければ、契約を解除することができない。」

第782条 【旅客が航海できなくなった場合】

 @ 旅客カ発航前ニ死亡、疾病其他一身ニ関スル不可抗力ニ因リテ航海ヲ為スコト能ハサルニ至リタルトキハ船舶所有者ハ運送賃ノ四分ノ一ヲ請求スルコトヲ得

 A 前項ニ掲ケタル事由カ発航後ニ生シタルトキハ船舶所有者ハ其選択ニ従ヒ運送賃ノ四分ノ一ヲ請求シ又ハ運送ノ割合ニ応シテ運送賃ヲ請求スルコトヲ得
「@ 旅客が発航前に、死亡、疾病、その他一身に関する不可抗力によって、航海をすることができなくなったときは、船舶所有者は運送賃の4分の1を請求することができる。

A @の事由が発航後に生じたときは、船舶所有者は、運送賃の4分の1、または、@の事由が生じるまでに行った運送の割合に応じて運送賃を請求することができる。」
第783条 【航海中の船舶の修繕】

 航海ノ途中ニ於テ船舶ヲ修繕スヘキトキハ船舶所有者ハ其修繕中旅客ニ相当ノ住居及ヒ食料ヲ供スルコトヲ要ス但旅客ノ権利ヲ害セサル範囲内ニ於テ他ノ船舶ヲ以テ上陸港マテ旅客ヲ運送スルコトヲ提供シタルトキハ此限ニ在ラス
「航海中に船舶を修繕しなければならないとき、船舶所有者はその間、旅客に相当の住居と食料を提供しなければならない。ただし、旅客の権利を害しない範囲内で、他の船舶を使い、旅客が上陸する予定の港まで運送した場合は別である。」

第784条 【契約が終了する事由】

 旅客運送契約ハ第七百六十条第一項第一号乃至第三号ニ掲ケタル事由ニ因リテ終了ス若シ其事由カ航海中ニ生シタルトキハ旅客ハ運送ノ割合ニ応シテ運送賃ヲ支払フコトヲ要ス
「旅客運送契約は第760条第1項第1号から第3号の事由によって終了する。もし、その事由が航海中に生じたときは、旅客はそれまでの運送の割合に応じて運送賃を支払わなければならない。」

第760条は全部用船契約の終了事由である。第1号から第3号は以下である。

1 船舶が沈没したとき
2 船舶が修繕できない状態になったとき
3 船舶が捕らえられた時
第785条 【旅客の死亡と手荷物】

 旅客カ死亡シタルトキハ船長ハ最モ其相続人ノ利益ニ適スヘキ方法ニ依リテ其船中ニ在ル手荷物ノ処分ヲ為スコトヲ要ス
「旅客が死亡したとき、船長は旅客の相続人に最も利益となる方法によって船にある旅客の手荷物を処分することができる。」
第786条 【陸上旅客運送と物品運送の規定の準用】

 @ 第五百九十条、第五百九十一条第一項、第五百九十二条、第七百三十八条、第七百三十九条、第七百六十一条及ヒ第七百六十五条ノ規定ハ海上ノ旅客運送ニ之ヲ準用ス

 A 第七百四十条及ヒ第七百六十四条ノ規定ハ旅客ノ手荷物ニ之ヲ準用ス
「@ 第590条、第591条第1項、第592条、第738条、第739条、第761条、第765条の規定は、海上の旅客運送について準用する。

A 第740条、第764条の規定は、旅客の手荷物について準用する。」

詳しくは以下を参照。

条文 説明
海上の旅客運送 第590条 @ 旅客運送人は、自分または使用人が運送に関して注意を怠らなかったということを証明しない限り、旅客が旅客運送のために受けた損害を賠償しなければならない。

A 損害賠償額を定めるとき、裁判所は被害者およびその家族の情況を考慮しなければならない。
第591条第1項 @ 旅客運送人は、旅客より引渡しを受けた手荷物について、その運送賃を請求しないときでも、物品の運送人と同一の責任を負う。
第592条 旅客運送人は、旅客より引渡しを受けない手荷物の滅失または毀損については、自分または使用人に過失がある場合を除いて、損害賠償の責任を負わない。
第738条 船舶所有者は傭船者または荷送人に対して、航海に出る時、その船舶が安全に航海できる能力があることを保証し、その責任を負う。
第739条 船舶所有者は、特別の約束をしたときであっても、自分の過失、船員その他の使用人の故意もしくは重過失、または船舶の堪航能力の欠如によって生じた損害を賠償する責任を負う。
第761条 @ 航海または運送が法令に違反することになったとき、その他不可抗力によって契約をした目的を達成することができなくなったとき、当事者はどちらからでも契約を解除することができる。

A @の事由が発航後に生じた場合、契約の解除をするときは傭船者は、すでに行われた運送の割合に応じて運送賃を支払わなければならない。
第765条 船舶所有者が、傭船者や荷送人や荷受人に対して持っている債権は、1年経過したときに、時効により消滅する。
旅客の手荷物 第740条 @ 法令に違反しまたは契約によらないで船積みされた運送品に関して、船長はいつでもそれを陸揚げすることができる。もし、船舶または他の積荷に危害を与えるような恐れがあるときは、それを放棄することができる。ただし、船長がそれを運送するときは、船積みした港および船積みした時において、同種の運送品の最高の運送賃を請求することができる。

A @の規定は、船舶所有者、その他の利害関係人は、積荷の所有者に対して損害賠償を請求することができる。
第764条 船舶所有者は、次の1から3の場合において、運送賃の全額を請求することができる。

1 船長が第715条第1項の規定に従って、積荷を売却または質入したとき
2 船長が第719条の規定に従って、積荷を航海のために使用したとき
3 船長が第788条の規定に従って、積荷を処分したとき
第787条 【物品運送の規定の準用】

 旅客運送ヲ為ス為メ船舶ノ全部又ハ一部ヲ以テ運送契約ノ目的ト為シタル場合ニ於テハ船舶所有者ト傭船者トノ関係ニ付テハ前節第一款ノ規定ヲ準用ス
「旅客運送のため船舶の全部または一部の傭船契約をした場合、船舶所有者と傭船者との関係については、第1節物品運送の第1款総則の規定を準用する。」

詳しくは以下を参照。
第1節 物品運送 第1款 総則 第737条〜第766条
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