商法 条文 商法 解説
第3編 海商

第4章 海損
海上では、常に暴風などの危険が存在する。嵐にあえば、積荷を処分して船を軽くして、沈没を防がなければならないこともある。この場合、捨てられた積荷のおかげで船やその他の積荷が助かったといえ、捨てられた積荷の者だけが損害を負担するのは不公平である。

本章では、このような損害を共同海損として、利害関係人全員の負担としなければならないと規定している。

広義の海損
(航海において、船舶や積荷に生じた損害や費用)
狭義の海損
(非常時に生じた損害)
共同海損
(共同の危険を免れるために要した損害や費用)
単独海損
(船舶の衝突)
小海損
(航海で通常生じる船舶の消耗や燃料代)
第788条 【共同海損】

 @ 船長カ船舶及ヒ積荷ヲシテ共同ノ危険ヲ免レシムル為メ船舶又ハ積荷ニ付キ為シタル処分ニ因リテ生シタル損害及ヒ費用ハ之ヲ共同海損トス

 A 前項ノ規定ハ危険カ過失ニ因リテ生シタル場合ニ於テ利害関係人ノ過失者ニ対スル求償ヲ妨ケス
「@ 船長が、船舶と積荷の両方が危険にさらされた場合に、それから逃れるため、船舶または積荷を処分したことによって生じた損害と費用は、共同海損(海上で起こった船舶所有者や荷主の共同の損害)とする。

A @の規定は、危険がある者の過失によって生じた場合、利害関係人は過失者に対して損害賠償を要求することができる。」

航海中に、暴風などによって船が危険にさらされることがある。積荷を海に捨てないと船その物が沈没してしまうといった状態になったとき、積荷を処分するのはやむをえないが、その損害は積荷の所有者だけが負うのではなく、船舶所有者やその他の積荷の所有者全員が共同で分け持たなければならない。これが、共同海損である。

ただし、危険な状態が誰かの過失によって生じた場合は、その過失者がその責任を負わなければならない。
第789条 【共同海損の負担額】

 共同海損ハ之ニ因リテ保存スルコトヲ得タル船舶又ハ積荷ノ価格ト運送賃ノ半額ト共同海損タル損害ノ額トノ割合ニ応シテ各利害関係人之ヲ分担ス
「共同海損は、危険から逃れることができた船舶の値段または積荷の価格、運送賃の半額、共同海損の損害額との割合に応じて、各利害関係人が分担して負担する。」

具体的な数字を元にした計算方法は以下である。
名前 金額 計算方法
具体例 1、危険から逃れることができた船の値段 1億円
2、危険から逃れることができた積荷 3000万円
3、運送賃 1000万円
4、共同海損 1500万円
分担額 1、船舶所有者 1000万円 1500万円×(1億円÷1億5000万円)
2、残った積荷の所有者 300万円 1500万円×(3000万円÷1億5000万円)
3、運送業者 50万円 1500万円×(500万円÷1億5000万円)
4、損害を受けた積荷の所有者 150万円 1500万円×(1500万円÷1億5000万円)
結論 損害を受けた積荷の所有者は、船舶所有者から1000万円、残った積荷の所有者から300万円、運送業者から50万円を受け取ることができ、150万円を負担することとなる。
※この計算は、航海が終わってから船長が行い、清算書を作る(第720条)。
第790条 【分担額の価格の算定方法】

 共同海損ノ分担額ニ付テハ船舶ノ価格ハ到達ノ地及ヒ時ニ於ケル価格トシ積荷ノ価格ハ陸揚ノ地及ヒ時ニ於ケル価格トス但積荷ニ付テハ其価格中ヨリ滅失ノ場合ニ於テ支払フコトヲ要セサル運送賃其他ノ費用ヲ控除スルコトヲ要ス
「共同海損の分担額については、船舶の価格は到達地と到達時における価格とする。積荷の価格は陸揚げ地と陸揚げ時における価格とする。ただし、積荷については、滅失した場合において支払う必要がなくなった運送賃やその他の費用を控除する必要がある。」

第791条 【分担する損害額の限度】

 前二条ノ規定ニ依リ共同海損ヲ分担スヘキ者ハ船舶ノ到達又ハ積荷ノ引渡ノ時ニ於テ現存スル価額ノ限度ニ於テノミ其責ニ任ス
「第789条と第790条の規定により、共同海損を分担しなければならない者は、船舶到達時の価額または積荷の引渡し時の価額を限度として負担する。」

共同海損の額が非常に大きくなり、利害関係人は助かった物の値段以上に負担しなければならないこともありうる。そのような場合は、助かった物の値段までの負担となる。
第792条 【分担額を決めるとき除外するもの】

 船舶ニ備附ケタル武器、船員ノ給料、船員及ヒ旅客ノ食料並ニ衣類ハ共同海損ノ分担ニ付キ其価額ヲ算入セス但此等ノ物ニ加ヘタル損害ハ他ノ利害関係人之ヲ分担ス
「船舶に備え付けた武器、船員の給料、船員と旅客の食料ならびに衣類は、共同海損の分担額を決めるときには算入しない。ただし、これらの物に損害が生じた場合は、他の利害関係人が分担する。」

ここに規定してあるものは、危険から逃れるために使用されるものであり、これらが助かったからといって、その所有者が分担金を支払う必要はない。逆に、これらの物のおかげで他の物が助かったときは、共同海損として認められ、他の利害関係人は分担しなければならない。
第793条 【分担する必要のない損害】

 @ 船荷証券其他積荷ノ価格ヲ評定スルニ足ルヘキ書類ナクシテ船積シタル荷物又ハ属具目録ニ記載セサル属具ニ加ヘタル損害ハ利害関係人ニ於テ之ヲ分担スルコトヲ要セス

 A 甲板ニ積込ミタル荷物ニ加ヘタル損害亦同シ但沿岸ノ小航海ニ在リテハ此限ニ在ラス

 B 前二項ニ掲ケタル積荷ノ利害関係人ト雖モ共同海損ヲ分担スル責ヲ免ルルコトヲ得ス
「@ 船荷証券など、積荷の価格を評価して確定するのに必要な書類がない場合や、船積みした荷物または付属具目録に記載されていない付属具に加えた損害は、利害関係人が損害を分担するひつようはない。

A 甲板上に積み込んだ荷物に加えた損害も分担する必要はない。ただし、沿岸の小航海の場合は分担しなければならない。

B @とAに規定してある損害を分担してもらえない積荷の利害関係人であっても、共同海損は分担しなければならない。」
第794条 【損害額の算定方法】

 @ 共同海損タル損害ノ額ハ到達ノ地及ヒ時ニ於ケル船舶ノ価格又ハ陸揚ノ地及ヒ時ニ於ケル積荷ノ価格ニ依リテ之ヲ定ム但積荷ニ付テハ其滅失又ハ毀損ノ為メ支払フコトヲ要セサリシ一切ノ費用ヲ控除スルコトヲ要ス

 A 第五百七十八条ノ規定ハ共同海損ノ場合ニ之ヲ準用ス
「@ 共同海損の損害額は、到達地の到達時の船舶の価格または陸揚げ地の陸揚げ時の積荷価格によって決める。ただし、積荷については、滅失または毀損のために支払う必要がなくなった一切の費用を控除する必要がある。

A 第578条の規定は、共同海損の場合に準用する。」

第578条はつまり、貨幣や株券や宝石などの高価品について、その種類や数量などをきっちり告げていない場合、共同海損として認める必要はないということである。
第795条 【積荷の価格が実際の価格と違う場合】

 @ 船荷証券其他積荷ノ価格ヲ評定スルニ足ルヘキ書類ニ積荷ノ実価ヨリ低キ価額ヲ記載シタルトキハ其積荷ニ加ヘタル損害ノ額ハ其記載シタル価額ニ依リテ之ヲ定ム

 A 積荷ノ実価ヨリ高キ価額ヲ記載シタルトキハ其積荷ノ利害関係人ハ其記載シタル価額ニ応シテ共同海損ヲ分担ス

 B 前二項ノ規定ハ積荷ノ価格ニ影響ヲ及ホスヘキ事項ニ付キ虚偽ノ記載ヲ為シタル場合ニ之ヲ準用ス
「@ 船荷証券など、積荷の価格を評価して確定するのに必要な書類に、その積荷の価格より安い価格を記載したとき、その積荷がこうむった損害額は記載した安い価格をもとに計算する。

A 積荷の価格より高い価格を記載したときは、その積荷の利害関係人は共同海損の負担額を、記載した高い価格をもとに計算する。

B @とAの規定は、積荷の価格に影響を及ぼすような事項につき、ウソの記載をした場合に準用する。」

第796条 【損害が戻ってきた場合】

 第七百八十九条ノ規定ニ依リテ利害関係人カ共同海損ヲ分担シタル後船舶、其属具若クハ積荷ノ全部又ハ一部カ其所有者ニ復シタルトキハ其所有者ハ償金中ヨリ救助料及ヒ一部滅失又ハ毀損ニ因リテ生シタル損害ノ額ヲ控除シタルモノヲ返還スルコトヲ要ス
「第789条の規定により、利害関係人が共同海損を分担した後、船舶、船舶の付属具、積荷の全部または一部がその所有者に戻ってきたとき、その所有者は受け取った分担金の中から、救助料と一部が滅失したり毀損したために生じた損害額を差し引いた額を返還しなければならない。」

第797条 【船舶が衝突した場合】

 船舶カ双方ノ船員ノ過失ニ因リテ衝突シタル場合ニ於テ双方ノ過失ノ軽重ヲ判定スルコト能ハサルトキハ其衝突ニ因リテ生シタル損害ハ各船舶ノ所有者平分シテ之ヲ負担ス
「船舶が双方の船員の過失によって衝突した場合、双方の過失割合を判定することができないときは、衝突によって生じた損害は各船舶所有者が半分ずつ負担する。」

一方の船員にだけ過失がある場合は、過失のあったほうが全額を負担しなければならない。また、過失の割合がわかっている場合も、その割合に応じて負担する。

また、船舶にではなく、荷物に損害があった場合で過失割合がわからないときは、荷主は両方に対して全額の損害賠償請求ができる。どちらかが全額を支払った場合、船舶所有者と船舶所有者での話し合いとなる。
第798条 【共同海損または船舶の衝突による債権の時効】

 @ 共同海損又ハ船舶ノ衝突ニ因リテ生シタル債権ハ一年ヲ経過シタルトキハ時効ニ因リテ消滅ス

 A 前項ノ期間ハ共同海損ニ付テハ其計算終了ノ時ヨリ之ヲ起算ス
「@ 共同海損または船舶の衝突によって生じた債権は、1年経過した時に、時効により消滅する。

A @の期間は、共同海損については分担額の計算が終了したときから起算する。」

第799条 【不可抗力による停泊】

 本章ノ規定ハ船舶カ不可抗力ニ因リ発航港又ハ航海ノ途中ニ於テ碇泊ヲ為ス為メニ要スル費用ニ之ヲ準用ス
「船舶が不可抗力によって航海または航海中において、停泊しなければならなかったときにかかった費用は、本章の共同海損の規定を準用する。」

トップへ戻る