商法 条文 商法 解説
第3編 海商

第7章 船舶債権者
第842条 【船舶に対して先取特権をもつ債権】

 左ニ掲ケタル債権ヲ有スル者ハ船舶、其属具及ヒ未タ受取ラサル運送賃ノ上ニ先取特権ヲ有ス

 1 船舶並ニ其属具ノ競売ニ関スル費用及ヒ競売手続開始後ノ保存費

 2 最後ノ港ニ於ケル船舶及ヒ其属具ノ保存費

 3 航海ニ関シ船舶ニ課シタル諸税

 4 水先案内料及ヒ挽船料

 5 救助料及ヒ船舶ノ負担ニ属スル共同海損

 6 航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権

 7 雇傭契約ニ因リテ生シタル船長其他ノ船員ノ債権

 8 船舶カ其売買又ハ製造ノ後未タ航海ヲ為ササル場合ニ於テ其売買又ハ製造並ニ艤装ニ因リテ生シタル債権及ヒ最後ノ航海ノ為メニスル船舶ノ艤装、食料並ニ燃料ニ関スル債権
「次の1から8の債権を持っている者は、船舶、船舶の付属具、まだ受け取っていない運送賃に対して先取特権を持つ。

1 船舶、船舶の付属具を競売したときの競売費用、競売手続きを開始した後の保管費用
2 航海の最後の港においての船舶と船舶の付属具の保管費用
3 航海に関して船舶に課された税金
4 水先案内料と引船料
5 海難救助料と船舶について支払う共同海損
6 航海を継続するために必要ったことから生じた債権
7 船長やその他の船員の雇い入れ契約による賃金などの債権
8 船舶が売買のあった後または製造された後、まだ航海をしない場合において、売買または製造や船舶の装備のために生じた債権、および最後の航海のためにする船舶の装備、食料、燃料に関する債権」

この順番は、先取特権者が複数いる場合、優先順位となる(第844条)。
第843条 【運送賃に対する先取特権】

 船舶債権者ノ先取特権ハ運送賃ニ付テハ其先取特権ノ生シタル航海ニ於ケル運送賃ノ上ニノミ存在ス
「船舶債権者が運送賃に対してもつ先取特権は、その先取特権が生じた航海における運送賃についてだけ、効力を持つ。」

第844条 【先取特権の優先順位】

 @ 船舶債権者ノ先取特権カ互ニ競合スル場合ニ於テハ其優先権ノ順位ハ第八百四十二条ニ掲ケタル順序ニ従フ但同条第四号乃至第六号ノ債権間ニ在リテハ後ニ生シタルモノ前ニ生シタルモノニ先ツ

 A 同一順位ノ先取特権者数人アルトキハ各其債権額ノ割合ニ応シテ弁済ヲ受ク但第八百四十二条第四号乃至第六号ノ債権カ同時ニ生セサリシ場合ニ於テハ後ニ生シタルモノ前ニ生シタルモノニ先ツ

 B 先取特権カ数回ノ航海ニ付テ生シタル場合ニ於テハ前二項ノ規定ニ拘ハラス後ノ航海ニ付テ生シタルモノ前ノ航海ニ付テ生シタルモノニ先ツ
「@ 船舶債権者の先取特権が競合する場合、優先順位は第842条の順序に従う。ただし、第842条の第4号から第6号については、後に発生したものが先に発生したものよりも優先される。

A 同一順位の先取特権者が数人いるときは、その債権額の割合に応じて弁済を受ける。ただし、第842条第4号から第6号の債権が同時に発生した場合、後で発生したものが、前に発生した債権より優先される。

B 先取特権が数回の航海において生じた場合、@とAの規定に従わず、後の航海で生じた先取特権が、前の航海で生じた先取特権よりも優先される。」

第845条 【先取特権が競合する場合】

 船舶債権者ノ先取特権ト他ノ先取特権ト競合スル場合ニ於テハ船舶債権者ノ先取特権ハ他ノ先取特権ニ先ツ
「船舶債権者の先取特権と他の先取特権とが競合する場合、船舶債権者の先取特権は他の先取特権よりも優先される。」

第846条 【船舶を譲渡した場合】

 @ 船舶所有者カ其船舶ヲ譲渡シタル場合ニ於テハ譲受人ハ其譲渡ヲ登記シタル後先取特権者ニ対シ一定ノ期間内ニ其債権ノ申出ヲ為スヘキ旨ヲ公告スルコトヲ要ス但其期間ハ一个月ヲ下ルコトヲ得ス

 A 先取特権者カ前項ノ期間内ニ其債権ノ申出ヲ為ササリシトキハ其先取特権ハ消滅ス
「@ 船舶所有者が船舶を譲渡した場合、譲受人は譲渡についてを登記した後、先取特権者に対し一定の期間内に債権を持っていることを申し出るよう公告しなければならない。ただし、この期間は1ヶ月以上でなければならない。

A 先取特権者が@の期間内に、債権を持っていることを申し出なかったときは、その先取特権は消滅する。」
第847条 【先取特権の消滅】

 @ 船舶債権者ノ先取特権ハ其発生後一年ヲ経過シタルトキハ消滅ス

 A 第八百四十二条第八号ノ先取特権ハ船舶ノ発航ニ因リテ消滅ス
「@ 船舶債権者の先取特権は、発生後1年経過すれば消滅する。

A 第842条第8号の先取特権は、船舶が発航すれば消滅する。」

第848条 【抵当権】

 @ 登記シタル船舶ハ之ヲ以テ抵当権ノ目的ト為スコトヲ得

 A 船舶ノ抵当権ハ其属具ニ及フ

 B 船舶ノ抵当権ニハ不動産ノ抵当権ニ関スル規定ヲ準用ス此場合ニ於テハ民法第三百八十四条第一号中「抵当権を実行して競売の申立てをしないとき」トアルハ「抵当権の実行としての競売の申立て若しくはその提供を承諾しない旨の第三取得者に対する通知をせず、又はその通知をした債権者が抵当権の実行としての競売の申立てをすることができるに至った後一週間以内にこれをしないとき」ト読替フルモノトス
「@ 登記した船舶は、抵当権をつけることができる。

A 船舶の抵当権は、船舶の付属具にも及ぶ。

B 船舶の抵当権については、不動産の抵当権に関する規定が準用される。この場合、民法第384条第1号の、「抵当権を実行して競売の申立てをしないとき」といういうのは、「抵当権の実行としての競売の申立て若しくはその提供を承諾しない旨の第三取得者に対する通知をせず、又はその通知をした債権者が抵当権の実行としての競売の申立てをすることができるに至った後一週間以内にこれをしないとき」に読み替える。」

抵当権は質権とは違い、船舶所有者が船舶を利用し続けることができる。

質権と抵当権(第848条と第850条)
権利 登記した船舶 登記していない船舶
質権 ×
抵当権 ×

民法の抵当権については以下を参照。
第1節 総則 第369条〜第372条
第2節 抵当権の効力 第373条〜第395条
第3節 抵当権の消滅 第396条〜第398条
第4節 根抵当 第398条の2〜第398条の22
第849条 【先取特権と抵当権】

 船舶ノ先取特権ハ抵当権ニ先チテ之ヲ行フコトヲ得
「船舶の先取特権は、抵当権より先に返済を受ける。」

第850条 【登記した船舶】

 登記シタル船舶ハ之ヲ以テ質権ノ目的ト為スコトヲ得ス
「登記した船舶は、質権の目的とすることができない。」

つまり、質入することはできないということである。
第851条 【製造中の船舶】

 本章ノ規定ハ製造中ノ船舶ニ之ヲ準用ス
「本章の規定は、製造中の船舶について準用する。」
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