商法 条文 商法 解説
第1編 総則

第4章 商号
商人が、営業上自己を表示する名称のことを商号という。

会社の場合は必ず商号をもつが、個人商人の場合は自己の氏名とは別に商号を持つかどうかは任意である。
第11条 【商号の選定】

 @ 商人(会社及び外国会社を除く。以下この編において同じ。)は、その氏、氏名その他の名称をもってその商号とすることができる。

 A 商人は、その商号の登記をすることができる。
商号は文字で表され、発音できるものでなければならない。図形や紋章や記号などは商標(商標第1条)となることはあっても、商号とすることはできない。

会社の場合、商号についていくつかの制限がある(会社法第6条から8条、商法第12条1項、不正競争防止法第2条)。

商号は営業の同一性を表すものであり、商人は一個の営業については一個の商号しかもちいることができない(商号単一の原則)。

また、日本においては商号はその営業内容を表す必要はない。上で書いてあるような制限や公序良俗に反しない限り、他人の氏名や無意味な名称であっても商号にできる。
第12条 【他の商人と誤認させる名称等の使用の禁止】

 @ 何人も、不正の目的をもって、他の商人であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。

 A 前項の規定に違反する名称又は商号の使用によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある商人は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
条文中の不正の目的とは、ある名称や商号を使用することにより、他の商人と混同・誤認させようとする目的である。本条はこの不正の目的があれば、その名称が他人によって商号として使用されているかとか、商号として登記されているか等といったこととは関係なく適用される。

また、条文中の商号の使用とは、契約などにおいて文書として使用すること以外にも、広告や看板などにおいての事実上の使用も含まれる。

不正な目的で名称や商号を使用されたことにより、収益が減ったり、信用が失墜した場合、またはこれらが起こる可能性がある場合は、使用の停止を求めたり、事前に使用しないように予防を請求することができる。
第13条 【過料】

 前条第一項の規定に違反した者は、百万円以下の過料に処する。
名称や商号の不正使用者は、第12条の規定による請求を受ければ使用をやめなければならないが、さらに過料の制裁を受ける。過料は刑事罰ではない。

また、商法ではないが、不正競争防止法では懲役や罰金といった刑事罰が規定されている。
第14条 【自己の商号の使用を他人に許諾した商人の責任】

 自己の商号を使用して営業又は事業を行うことを他人に許諾した商人は、当該商人が当該営業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。
本条は名板貸しについての規定である。

名前 説明
名板貸し
(名義貸し)
商号などの名義を貸すこと。貸す人を名板貸し人という。条文中の、「自己の商号を使用して営業又は事業を行うことを他人に許諾した商人」のことである。
名板借り
(名義借り)
商号などの名義を借りること。借りる人を名板借り人という。条文中の「自己の商号を使用して営業又は事業を行うことを他人に許諾した商人」から名義を借りた人のことである。

本条は、名板借り人と取引をした第三者を保護するための規定である。名板借り人を名板貸し人だと思って取引をした第三者がいた場合、名板貸しは名板借り人と連帯して、その取引から生じた債務を支払わなければならない。

名板貸し人の責任が認められる場合は以下の要件が必要である。
要件 補足
・自己の商号を他人がその営業・事業に関して使用していること 名称の使用は、そのまま使用する以外にも、○○支店とか○○出張所など、追加的な文字がある場合も含む。
・名板貸し人が使用を許諾したこと 許諾の方法に制限はない。書面でも口頭でもかまわない。また、暗示でもよい。つまり、他人が勝手に自己の名称を使用しているのを指し止めないで放置している場合でも、第三者が誤認すれば責任が生じる場合もありえる。
・取引をした第三者が取引相手を名板貸し人であると信じていたこと 第三者の重過失により信じてしまった場合は、保護されないとする判例がある。また、過失があった場合には保護されるのかどうかは議論がある。
※名板貸し人は商人に限られる。平成17年の改正前の商法では商人に限られていなかった。
※本条が規定する連帯責任は、営業上の取引について認められるものである。そのため、不法行為(民法第709条)などは含まれない。ただし、詐欺のように営業上の取引行為の外形をとった不法行為による債務は含まれるとする判例(最高裁昭和58年1月25日)もある。
第15条 【商号の譲渡】

 @ 商人の商号は、営業とともにする場合又は営業を廃止する場合に限り、譲渡することができる。

 A 前項の規定による商号の譲渡は、登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
商号には経済価値があり、商号それ自体が取引されることも珍しくない。だが、無制限に商号が譲渡されたりすると、混乱を招くため、本条が規定されている。

商号を譲渡する場合、商号と営業を一緒に譲渡する場合と、営業をやめた上で商号だけを譲渡する場合に認められている。また、譲渡したことは登記しなければ第三者にそれを主張することができない。
第16条 【営業譲渡人の競業の禁止】

 @ 営業を譲渡した商人(以下この章において「譲渡人」という。)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(東京都の特別区の存する区域及び地方自治法 (昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項 の指定都市にあっては、区。以下同じ。)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その営業を譲渡した日から二十年間は、同一の営業を行ってはならない。

 A 譲渡人が同一の営業を行わない旨の特約をした場合には、その特約は、その営業を譲渡した日から三十年の期間内に限り、その効力を有する。

 B 前二項の規定にかかわらず、譲渡人は、不正の競争の目的をもって同一の営業を行ってはならない。
商法で使われている営業という言葉は多義にわたる。以下の表を参照。

営業の意味
商号や商標によって象徴される営業そのもの
営業活動
営業活動の基礎をなす人的・物的な営業組織
営業所
組織的な営業財産
※様々な意味があるため、条文ごとにその意味を考える必要がある。

本条で使われている営業は、組織的な営業財産のことである。商人は利益を得るために、建物、土地、車、設備などを購入して使用し営業活動をしているが、この場合、各々を単純合算した以上の価値があると考えられている。これを組織的な営業財産とし、本条ではこの営業財産を他人に譲渡したときについてを規定している。

営業を譲渡した場合の規定
1、当事者間で同一の営業を行わないことについての取り決めがなかった場合、譲渡人は同じまたは隣接する市町村内で、20年間は同一の営業ができない。
2、当事者間で1とは違う取り決めをすることができる。しかし、その期間は最大で30年までとなる。
3、譲渡人は、1と2の規定の範囲外であったとしても、譲り受けた者に対して不正な競争をするために同一の営業を行うことができない。
第17条 【譲渡人の商号を使用した譲受人の責任等】

 @ 営業を譲り受けた商人(以下この章において「譲受人」という。)が譲渡人の商号を引き続き使用する場合には、その譲受人も、譲渡人の営業によって生じた債務を弁済する責任を負う。

 A 前項の規定は、営業を譲渡した後、遅滞なく、譲受人が譲渡人の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、適用しない。営業を譲渡した後、遅滞なく、譲受人及び譲渡人から第三者に対しその旨の通知をした場合において、その通知を受けた第三者についても、同様とする。

 B 譲受人が第一項の規定により譲渡人の債務を弁済する責任を負う場合には、譲渡人の責任は、営業を譲渡した日後二年以内に請求又は請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。

 C 第一項に規定する場合において、譲渡人の営業によって生じた債権について、その譲受人にした弁済は、弁済者が善意でかつ重大な過失がないときは、その効力を有する。
営業譲渡があった場合、営業の債務は当事者の間では譲受人に移転するのが原則である(あくまで当事者間においては)。しかし、債権者との関係においては、債務負担行為(民法第474条)がないかぎり、債務者は譲渡人である(譲受人ではない)。


第17条 条文 説明
第1項 譲受人が商号を引き続いて使用した場合は、譲受人も債務の弁済責任を負う これを不真正連帯債務という。譲渡人と譲受人の両方が債務の弁済責任を負う。)。商号を引き続いて使用する場合、営業上の債権者は譲受人に対して請求できるものと信じることが多いため、外観に対する信頼を保護したものである。
第2項 第1項の場合、すぐに、「債務の弁済責任を負わない」という登記をした場合は、責任を負わなくてもよい。また、登記をしなくても、譲渡人と譲受人の両方から第三者に対して、「債務の弁済責任を負わない」という通知をすれば、通知を受けた第三者に対する債務については責任を負わなくてよい。 登記をしてもよいし、通知でもよい。
第3項 譲受人が債務の弁済責任を負う場合、債権者の譲渡人への請求権は営業を譲渡した日から2年で消滅する。 いつまでも譲渡人の責任を存続させておく必要はないためである。
第4項 譲渡人が行った営業から生じた債権について、その債務者が譲受人に対して弁済をしたとき、善意で重過失がなかった場合は、債務者の債務は消滅する。 これは、第1項から第3項までは譲渡人の債務についてであるが、第4項は譲渡人が持っていた債権についてである。
第18条 【譲受人による債務の引受け】

 @ 譲受人が譲渡人の商号を引き続き使用しない場合においても、譲渡人の営業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、譲渡人の債権者は、その譲受人に対して弁済の請求をすることができる。

 A 譲受人が前項の規定により譲渡人の債務を弁済する責任を負う場合には、譲渡人の責任は、同項の広告があった日後二年以内に請求又は請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。
本条は、第17条とは違い、商号を引き続き使用しなかった場合についての規定である。

譲受人が譲渡人の債務を引き受けると広告した場合、譲渡人の債権者は譲受人に弁済を請求することができる(本条第1項)。債務引き受けの広告とは、必ずしも債務を引き受けの文字が入っている必要はなく、一般に債務引き受けと認められるような記載があればよいとされている。また、広告ではなく、個別的に債権者に債務引き受けの通知をした場合でも、弁済請求を認めた判例がある。

第2項は、第17条第3項と同じである。譲受人が債務を引き受ける場合、債権者の譲渡人への請求権は2年で消滅する。
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