商法 条文 商法 解説
第1編 総則

第6章 商業使用人
商人は営業規模が拡大するにつれ、他人の労力が必要になってくる。その場合の制度には大きく分けて二つがある。

商人を補助する制度
営業組織 説明
内部 商業使用人 特定の商人に従属して補助する
外部 ・代理商
・仲立ち人
・問屋
・運送取扱人
独立の営業者として補助する
※代理商も商業使用人と同じような面があり、特定の商人を補助する。

企業補助者の制度
営業主 専属 従属 商業使用人 支配人
部長・課長
その他の使用人
独立 代理商 媒介代理商
締約代理商
非専属 ・問屋
・仲立人
・運送人
・運送取扱人
第20条 【支配人】

 商人は、支配人を選任し、その営業所において、その営業を行わせることができる。
支配人とは、商人から訴訟行為を含む営業に関する一切の行為をなす代理権(支配権)を授与された商業使用人のことである。支配人の権限は商号・営業所ごとの個別的なものであり、登記事項である。支配人かどうかは名称によってきまるのではなく、このような代理権があるかどうかで決まる。

支配人を選任すれば、商人はそのつど代理権を授与する必要はなくなるし、取引相手にとっても権限の有無を確認する手間が省ける。
第21条 【支配人の代理権】

 @ 支配人は、商人に代わってその営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。

 A 支配人は、他の使用人を選任し、又は解任することができる。

 B 支配人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
第1項については、前条の解説に書いた通りである。

第2項は、支配人は商法第25条に規定されている他の使用人(例えば部長や課長など)を選任・解任することができることを規定している。

第3項は、例えば、商人が支配人にいくらまでの取引ならしてもよいと制限を加えていたが、支配人がそれを超えて取引をしたとする。この場合、商人はそれを知らなかった第三者に対して制限があったことを主張して責任を免れることはできないということである。
第22条 【支配人の登記】

 商人が支配人を選任したときは、その登記をしなければならない。支配人の代理権の消滅についても、同様とする。
支配人の選任と終任については登記しなければならない。これは取引相手などにとって、重要な影響があるためである。本条については、9条も参照。
第23条 【支配人の競業の禁止】

 @ 支配人は、商人の許可を受けなければ、次に掲げる行為をしてはならない。

 1 自ら営業を行うこと。

 2 自己又は第三者のためにその商人の営業の部類に属する取引をすること。

 3 他の商人又は会社若しくは外国会社の使用人となること。

 4 会社の取締役、執行役又は業務を執行する社員となること。

 A 支配人が前項の規定に違反して同項第二号に掲げる行為をしたときは、当該行為によって支配人又は第三者が得た利益の額は、商人に生じた損害の額と推定する。
本条は競業避止義務についての規定である。商人と支配人との関係は、民法の雇用契約に関する規定が適用される。禁止されることは以下である。

支配人の競業避止義務
第23条 禁止事項
第1号 全ての種類の営業
第2号 自己や第三者のため、同じ種類の営業
第3号 他の商人、会社(外国会社も含む)の使用人になること
第4号 会社の取締役、執行役、業務を遂行する社員になること
※上記のことがらは、商人の許諾がなければしてはいけないことである。逆に言えば、許諾さえあればしてもよいということである。
※もし、支配人が商人の許諾なしに上記のことがらを行った場合、その行為自体が無効となるわけではない。支配人の商人に対する一般的な債務不履行による損害賠償責任(民法第415条)や、雇用契約解除(民法第628条)などの問題となる。
※第2号の同じ種類の営業をした場合、支配人や第三者が得た利益額は反証がない限り、商人が受けた損害額とされる。
第24条 【表見支配人】

 商人の営業所の営業の主任者であることを示す名称を付した使用人は、当該営業所の営業に関し、一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなす。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。
本条は、民法の表見代理(民法第110条)と似ている。表見支配人とは、支配人と考えられるような名称(該当する名称については個々に社会通念によって決まる)がついているが、実際には支配人ではないもののことである(支配人かどうかは名称ではなく、商人から支配人としての権限(第21条)を授与されているかどうかによって決まるものである)。

本条の規定により、表見支配人と取引をした第三者は、相手が支配人ではないということを知らなかった場合、代理権のある支配人と取引をしたものとして扱われる。本条は取引の安全保護のための規定であるため、裁判上の行為については対象外である。
第25条 【ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人】

 @ 商人の営業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する。

 A 前項の使用人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
条文中の使用人とは、つまり部長・課長・係長・主任などのことである。営業に関するある種の事項とは、販売・購入などのある部門を包括した事項のことである。特定の事項とは、ある機械の購入など狭い範囲の事項のことである。
第26条 【物品の販売等を目的とする店舗の使用人】

 物品の販売等(販売、賃貸その他これらに類する行為をいう。以下この条において同じ。)を目的とする店舗の使用人は、その店舗に在る物品の販売等をする権限を有するものとみなす。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。
本条は、支配人(第20条)や使用人(第25条)など、取引上の代理権が規定されている商業使用人以外の使用人についての規定である。一般に社員と呼ばれる使用人の権限についての規定である。

例えば、店舗で買い物をするとき、店員に代理権の有無や範囲を確認するのは不便である。その為、本条の規定により代理権があるものとして取り扱うとされている。

条文では物品の販売について規定されているが、同様の関係が認められる物品の賃貸などについても類推適用される。
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