商法 条文 商法 解説
第1編 総則

第7章 代理商
商人が営業規模を拡大するとき、第6章の商業使用人を通じて営業所を新設していく方法がある。だが、商業使用人が地域の事情に通じていないため効率が悪いこともある。

営業所を新設するのが必ずしも適当ではない場合は、本章が規定している代理商に営業を任せる方法で規模を拡大することができる。
第27条 【通知義務】

 代理商(商人のためにその平常の営業の部類に属する取引の代理又は媒介をする者で、その商人の使用人でないものをいう。以下この章において同じ。)は、取引の代理又は媒介をしたときは、遅滞なく、商人に対して、その旨の通知を発しなければならない。
代理商には2種類ある。表を参照。

名前 関係 説明
締約代理商 委任 商人の営業取引を代理で行う。この取引は法的に商人に帰属する。
媒介代理商 準委任 紹介や推薦など取引が成立するまでの補助行為を行う。
※一人で両者を兼ねることができる。
※商人と代理商との間で特約がない限り、委任に関する民法と商法の規定が適用される。
※代理商は第6章の商業使用人ではないが、区別するのが困難な場合もある。


本条は、取引の代理や媒介を行ったときの、通知義務についての規定である。民法の第645条から646条の特則である。この通知は、発送すれば足り、着否の危険は商人が負う。
第28条 【代理商の競業の禁止】

 @ 代理商は、商人の許可を受けなければ、次に掲げる行為をしてはならない。

 1 自己又は第三者のためにその商人の営業の部類に属する取引をすること。

 2 その商人の営業と同種の事業を行う会社の取締役、執行役又は業務を執行する社員となること。

 A 代理商が前項の規定に違反して同項第一号に掲げる行為をしたときは、当該行為によって代理商又は第三者が得た利益の額は、商人に生じた損害の額と推定する。
本条は第23条の支配人の競業避止義務と同じような規定である。

代理商の競業避止義務
第28条 禁止事項
第1号 自己や第三者のため、同じ種類の営業
第2号 同じ種類の会社の取締役、執行役、業務を遂行する社員になること
※上記のことがらは、商人の許諾がなければしてはいけないことである。逆に言えば、許諾さえあればしてもよいということである。
※第1号の同じ種類の営業をした場合、支配人や第三者が得た利益額は反証がない限り、商人が受けた損害額とされる。


第23条の支配人の条文とは違い、義務の範囲が狭くなっている。
第29条 【通知を受ける権限】

 物品の販売又はその媒介の委託を受けた代理商は、第五百二十六条第二項の通知その他売買に関する通知を受ける権限を有する。
本条は物品の販売に関する締約代理商と媒介代理商に限って売買の履行に関する通知を受ける代理権があるものと規定している。商人とは離れたところにいる買主の便宜をはかるための規定ある。

商法第526条は商人と商人との取引について、買主は物品の欠陥や数量不足などの通知を遅滞なくださないとその救済を受ける権利がなくなると規定している。
第30条 【契約の解除】

 @ 商人及び代理商は、契約の期間を定めなかったときは、二箇月前までに予告し、その契約を解除することができる。

 A 前項の規定にかかわらず、やむを得ない事由があるときは、商人及び代理商は、いつでもその契約を解除することができる。
代理商契約が解除されるのは以下の場合である。民法の委任とは若干違うことに注意する必要がある。

種類 契約が終了する場合
商人 1、商人の破産手続き開始の決定
2、営業中止
代理商 1、死亡
2、破産手続き開始の決定
3、後見開始の審判
商人と代理商 1、契約期間がない場合、どちらからでも2ヶ月前
までに解除の予告をしたとき
2、やむをえない事情があるとき
※商人の死亡によっては終了しない(第506条)。
※解除とは解約告知の意味で、将来に向かってのみ効力がある。
第31条 【代理商の留置権】

 代理商は、取引の代理又は媒介をしたことによって生じた債権の弁済期が到来しているときは、その弁済を受けるまでは、商人のために当該代理商が占有する物又は有価証券を留置することができる。ただし、当事者が別段の意思表示をしたときは、この限りでない。
本条は留置権についての規定である。

代理商は債権が弁済期にあるとき留置権が認められている。留置権は本条以外にも民法第295条、商法第521条などがあり、これらも認められているが、代理商の場合はいくつかの特則がある。担保される債権は代理商としての行為によって生じたものである必要はあるが、留置の目的物とは関連がなくてもよい。また、留置の目的物は商人との間の商行為によったものである必要はないし、商人に所有権がない場合でもかまわない。

留置権の効力は、民法第296条以下のものと同じである。もし、商人が破産した場合は、代理商の留置権は他の商事留置権と同じく特別の先取特権とみなされ別除権が認められている(破産法第66条)。


留置権については、以下も参照。
民法 留置権 第295条〜第302条
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